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元東海大学医学部小児外科学教授 横山 清七さん(神奈川県茅ケ崎市)

【略歴】富岡市出身。新島学園高、慶応大医学部卒。第19回日本小児がん学会長。現在、病気とたたかう子どもたちに夢のキャンプを創る会会長、大磯幸寿苑施設長。

がん治療


◎偽物食品に頼らないで

 二年前に直腸がんと潰瘍(かいよう)性大腸炎のため大腸全摘手術、人工肛門作成手術を受けた。その後、5―FU(抗がん剤)を内服していたが、大腸がんの腫瘍(しゅよう)マーカー(がん細胞が産生する蛋白(たんぱく))であるCEAの血中濃度が上昇し、ついに先日のCT検査で局所再発、肺転移があると告知された。消化器がんに有効な抗がん剤は決定的なものがなく、手術でがんを取りきることができれば治る。全摘可能な早期がんのうちに早期発見することが治癒への第一条件であり、切除手術不能なものや全身転移のある消化器がんは治らないが一般常識であった。

 小児がんを専門としてきた僕は成人消化器がんの最新情報に関しては全くの素人であるため、告知されたときには、これで終わりかとショックを受け、あきらめた。恐らくテレビから得た知識であろうが、僕の妻は甘いもの、肉はがん細胞の栄養になってしまうから駄目、野菜が一番よいと信じ込み、食事内容が全く変えられてしまった。そして最近、過大、虚偽広告として新聞報道されたがんに効くと称する栄養食品の幾つか、黒くて、苦くて、まずいものを飲みなさいと言う。

 がん患者のわらをもつかむ気持ち、そして看護する者のできる限りのことをしてあげたいという気持ちを利用して、これら偽物健康食品は非常に高価である。がんが消えたとか、あと三カ月と言われたのに、もう三年生きているとかの誤診例、あるいは極めてまれな自然経過例のみを取り上げて広告している。対照すなわち同程度の進行がんで偽物のみを飲んだが、がん死した例数には全く触れてないのが特徴である。

 プラセボ効果(この薬はよく効くよとの医者の言葉により患者の反応が異なる)とか、免疫力に関与する可能性は否定できないが、西洋医学で正しいとされる手術、抗がん剤、放射線治療を受けずに、これら偽物のみに頼ることは絶対にやめてほしい。

 一度あきらめたところに朗報がもたらされた。オキサリプラチンという抗がん剤で消化器がん、特に大腸がんによく効く新薬が日本でも使えるようになったのである。日本で開発された新薬なのに今まで使用認可が下りず、外国から自費で取り寄せ、自費診療で用いられていた。

 国民皆保険制度下にある日本では健康保険がカバーしてくれるため、三割負担(支払いの上限も設定されている)で済んでいるが、自費診療となったら大変な高額となる。新しい治療法、新薬、CT・MRI・PETスキャンなどの検査費用などがすべて自費となったら、とても支払い切れるものではない。先進高額医療が増え、老人医療費が増加、今や健康保険制度は破たんの危機を迎えている。

 さて、進行小児がんがシスプラチン(白金製剤)の開発と骨髄移植という新しい治療法で治るようになったと同様に、成人の進行消化器がんも治り得るか。同じ白金製剤のオキサリプラチンが使えるようになり、僕には再び希望の灯がともった。

(上毛新聞 2005年10月8日掲載)