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中小企業診断協会県支部副支部長 森山 亨さん(桐生市堤町)

【略歴】早稲田大法学部卒。大和紡績マーケティング部長、桐生地域地場産業振興センター専務理事などを歴任。国、県などの各種懇談会、審議会で委員を務める。

模倣は創造の母


◎独創性高め発明立県を

 創造性開発の研修会で「模倣なくして創造なし」「独創力を高めたければ模倣する力を磨くこと」などと話すと、大抵の受講生は意外な顔をする。

 「独創」の反対語は「模倣」であり、「模倣によって偉大になった人はかつて一人もいない」(サミュエル・ジョンソン)とするのが世間の常識だからだろう。

 しかし、エジソンも「模倣は独創の先駆者」と言い、またピカソもアフリカの黒人の仮面からキュービズムに開眼したように、技術に限らず大発明や大発見も模倣から生まれているのは事実なのだが、この事実をすぐには納得しない受講生には、戦車のキャタピラ(無限軌道)発明にまつわる次のようなエピソードを話すことにしている。

 第一次世界大戦の折、イギリス軍はドイツ軍の激しい砲火に阻まれて敵陣に近づくことができなかった。困ったイギリス軍はドイツ軍の弾丸が貫通できない鋼鉄製の車両(戦車)を開発したのだが、普通の車輪では砲火で穴だらけの戦場を走ることができず、折角の戦車も実戦に役立たなかった。何とか凸凹の戦場でも走れる車両はないものか考え抜いた技術者の頭にひらめいたのは毛虫だった。

 毛虫は一方の足の端を今いる枝に固定し、もう一方の足の端を離れた枝に伸ばし、固定させてから残った足を放して見事に離れた枝に移動する。この動作を模倣すれば穴だらけの地面でも走れることに気づいて生まれたのが無限軌道であり、これをキャタピラ(毛虫)と名づけたという。

 受講生にこの話をするのは、このエピソードの中に幾つかの発想や発明のルールが隠されていると思うからである。

 その一つは、解決への強い意志と徹底して悩み抜くことが必要だということ。この逸話ではドイツ軍に絶対に勝つという強い意志が原動力だった。次に解決すべき問題の本質を正確に把握していること。ここでは、平らな地面ではなく穴の両端という二点の間を移動させることが問題の本質である。三つ目は毛虫の運動のような一見、無縁と思える雑知識を豊富に持っていること。四つ目は雑知識を模倣して目前の問題解決に役立てること。

 しかし、ここでの模倣は単なる模倣ではなく、創造的模倣という全く似て非なる模倣なのだが、最近こうした発想法が広い分野で応用されている。

 例えば「バイオミミック」と呼ばれる動植物や微生物などから系統的に模倣しようとする発想法がある。染料を使ってないのに美しい羽を持つチョウ、一つの口から種類の違う糸を吐くクモ、空気のほとんどないヒマラヤを飛び越えるツル、マイナス二〇〇度近い低温でも生き続けるキアゲハなどから模倣しようとする試みであり、既に幾つかの成功例もある。また優れた他企業を模倣して改善するベンチマーキングも同じ発想だ。本県でもこうした独創性を普及させ、発明立県を目指したらどうか。

(上毛新聞 2005年10月19日掲載)