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弁護士 富岡 恵美子さん(高崎市上和田町)

【略歴】中央大卒。71年に弁護士開業。01年まで群馬大講師。現在、県女性会館女性相談支援室長、日本ジェンダー学会理事。女性の人権問題などに取り組む。

働くDV被害女性


◎多様な支援を迅速に

 Aさん、夫の暴力で苦労しましたね。子供を連れて身ひとつで避難、夫の追及が怖くて誰一人身内も知人もいない群馬に来て三年。「もし、今の住居が知られたら」と思うと不安で、父母とも行き来せず、避難生活を続けるだけでした。

 でも、アルバイトを始めてから、あなたは変わりました。「仕事をするのが楽しくて。私に仕事ができるなんて、思わなかった」とうれしそう。離婚手続きをする気力もなかったあなたが、「もっといろんな仕事を覚えたい。しっかり働けば、正社員にしてくれるって。そうしたら、生活保護はやめて、働いて子供を育てていきたい。離婚もきちんとしたいので、引き受けてくれますか」と将来の生活を模索するようになったのでした。

 働くことが、Aさんにとって自信や誇り、生きる意欲を取り戻して、新しい生活を築いてゆく転機となったのでした。

 Bさん、あなたは夫の暴力に耐えながら、家を出る準備を懸命にしてきました。子供への直接の暴力はないけれど、子供たちは、Bさんが殴られたり、怒鳴られたりするのを見聞きしながら育ちました。「早く一緒に家を出たい」と願う子供たちのためにも、Bさんは働きに出て、母子で生活するための資金を少しずつためました。

 パートから正社員となったころ、夫の暴力はエスカレート。もう危なくて、家を出るしかありません。「後で必ず迎えに来るから」と子供たちに約束して、一人で家を出ました。

 Bさんの給料だけでは、母子で生活するのは無理です。関係者は、安い公営住宅や福祉手当、生活保護など熱心に当たってくれました。公営住宅は、何人も入居待ち状態で駄目。児童扶養手当は、離婚前なので駄目。生活保護は車を持っているので駄目。どうにも、方法がありません。特に、車がなければ通勤できないというのに、生活保護を受けるには、車は駄目なんて残念でなりません。

 DV(ドメスティック・バイオレンス)防止法ができて、暴力夫に対して、「妻に近づくな」という接近禁止命令を裁判所に出してもらえるようになりました。Bさんもこの命令を出してもらったので、勤務を続けることができたのです。

 今、重要なのは、何もかも捨てて避難するのではなく、Bさんのように働きながら生きている人への支援ではないでしょうか。

 「魚よりも、釣り針を与えよ」といいます。食べ物を与えるよりも釣り針を与えて、自分で魚を釣って生活できるようにする方が、一生役に立つのです。それに働くことは、Aさんのように、自信や誇りを持って生きる力をはぐくむでしょう。

 釣り針を与えるなら、釣り針の使い方などの研修、釣れるようになるまでの間、「魚を与える」こと、釣れるようになっても足りなければ「不足分を与える」ことなど、多様な支援を迅速、適切に行えるようにしたいものです。

(上毛新聞 2005年11月3日掲載)