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日本画家 上野 瑞香さん(富岡市七日市)

【略歴】東京芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻日本画第三研究室修了。05年3月より富岡市内にアトリエを持ち、現在は個展、グループ展を中心に活動。

岩絵の具


◎色の深さと味を知る

 高校二年の夏、「将来、私は日本画家になろう」と決めたわけは、日本画で使われている絵の具の色のきれいさだった。

 「日本画」と聞いて、皆さんはどんな材料で描いていると思われるだろうか。墨、水彩絵の具、染料…。「日本画」と呼ばれるものの中に、そういった画材を使って描かれた作品があることは確かだが、メーンの画材は何といっても「岩絵の具」である。

 では、水彩絵の具と岩絵の具は何が違うのか。まず、水彩絵の具は水に溶けるのだが、岩絵の具は水に溶けない。水と膠にかわを使って紙面に定着させるが、岩絵の具は溶けないので、水彩絵の具のように紙面に染み込むということはない。

 岩絵の具とは、その名の通り、岩(鉱物)を砕いて作った絵の具である。鉱物ごとに砂を作り、水とふるいを使って粒の大きさを十六段階にえり分ける。粒子が細かいほど、その色は白に近くなり、粒子が荒い(塩粒程度)ほど原石に近い色の絵の具となる。鉱物とは、例えば、水晶やラピスラズリ、トルコ石や辰砂(しんしゃ)、よく耳にする群青(アズライト)、緑青(孔くじゃく雀石せき=マラカイト)など。また鉱物のほかに●瑚(さんご)などもある。

 染料に比べて岩絵の具は、鉱物からできているため、変色・退色が少ないのが特長で、壁画や神社仏閣の彫刻などに昔のままの色鮮やかな面影を残している。

 しかし、天然のそうした岩絵の具は非常に高価で、混色ができない。この絵の具の色数を増やすため、今では方解石(無色透明の鉱物)やガラスに金属系の着色をして化合物を作り、鉱物の場合と同様に加工して作った「人造岩絵の具」がある。一般には、すべてをまとめて「岩絵の具」と言い、その中で天然物を使ったものを「天然岩絵の具」、方解石を使ったものを「合成岩絵の具」、ガラスを使ったものを「新岩岩絵の具」と言っている。

 人造岩絵の具は作られた色ではあるが、天然にはない色を補いつつ、天然岩絵の具特有の良さを残した色合いと質感の絵の具となっている。

 このような絵の具を使って作品を創つくりたくて、私は日本画を選んだ。余談だが、当時の私は色こそ知れ、まさかこんなに高価な絵の具ばかりであることは、全く知る由もなかった。

 この絵の具に出合うまで、絵は好きでも色には、まして一色に十六段階もの差があるほどに微妙な違いの色には、それほど通じていなかった。というより、色の区別がそれほどつかなかったのである。毎日、この岩絵の具を並べて使っているうちに、色の深さと色味が自然と分かるようになっていった。

 右の色は左の色に比べて少し明るく黄味がかっている…など、初めは二つ以上の絵の具同士を比べて見ていたが、徐々に身の周りのものすべてにさまざまな色味を見付けることができるようになっていった。一度色を感じられるようになると、自分が今まで見てきた色は、いかに先入観のみでとらえ、実際にはきちんと見分けてこなかったのか、ということに気付いたのである。

編注:●は "王ヘンに册"

(上毛新聞 2005年11月23日掲載)