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重要文化財彦部家住宅館長 彦部 篤夫さん(桐生市広沢町)

【略歴】群馬大大学院工学研究科修了。彦部家49代目。三洋電機に31年間勤務し、05年5月に退職。現在は文化財の有効活用を目指し、多彩な取り組みを展開中。

米国の社会奉仕活動


◎逆境の中で強さ形作る

 二十年ぶりのシカゴ空港で、親友テッドからの熱い抱擁の歓迎でスタートした今回の旅は、格別の思いがありました。というのは、このアメリカがサラリーマン生活三十一年間の最初の海外赴任地であり、その後二十年の海外関連業務の礎となったからでした。大国アメリカ第三の都市、人種のるつぼ、経済を支える摩天楼群、生の英語に魅せられた喜びなどなど、期待と不安の入り混じった旅立ちでした。

 「君の双肩に事業部千六百名の期待がかかっているので、頑張ってほしい」と上司から事業部駐在第一号として励ましの言葉を受けての旅立ちでもありました。自分の技術力が、英語力が、交渉力がどの程度通用するのかワクワク、ドキドキして当地に降り立ったのが、つい昨日のように思い出されました。

 そして、三年強の駐在生活の中で、ビジネスではゼネラル・エレクトリック(GE)との大型商談を成約させたこと。両親にアメリカ旅行をプレゼントした一九八五年八月十二日が五百人以上の犠牲者を出した日航ジャンボ機墜落事故日と重なり、ひやっとしたこと。シカゴで長女が誕生したこと―などの思い出が走馬灯のように脳裏を横切りました。そして、今回の旅は親友テッドからの五十五歳の退職祝いの招待で、第二の人生の旅立ちでもありました。

 当時、GEの購買の責任者として活躍していたテッドは現在、第二の人生として地域ボランティア活動に専念し、多くの友人をつくって地域社会に貢献している日々を過ごしていました。今回の旅では、摩天楼群がここ二十年で約一・五倍に増加し、また当時アメリカ経済をリードし活気があった半面、連日凶悪犯罪が横行していた街が、著しい経済発展で見違えるような文化都市に変ぼうしている姿を目の当たりにしました。

 一方、食生活の違いからか日本人の二―三倍も太った人々が多くを占め、いまだダイエットがアメリカ人の深刻な関心事であることも知りました。その上、今回一週間滞在の最大の関心事はアメリカの中産階級で会社を退職し、第二の人生を送っている人々がどんなことに生きがいを持って生活し、社会貢献しているかを知ることでした。

 翌朝、テッドとその妻マリーンのボランティアグループの仕事場を見学しました。そこは人種のるつぼ、シカゴで失職している人々が集まる職業安定所でした。朝の第一クルーは五十人程度が一堂に会し、テッドを含むコーチ陣のリードで今後の社会復帰に向けたビジョンを連呼し、現在置かれている境遇を紹介し合い、おくすることなく励まし合うセレモニーでした。その後、メンバーがスキルアップ学習室へと分かれて、真剣に取り組んでいる状況も見学できました。

 このような逆境の中、生活改善に向けた工夫とたくましいエネルギーが今日のアメリカの強さを形作っているのだ、と実感しました。この第二の人生を弱者救済の社会奉仕に捧げているアメリカ人老夫婦の活動を見て、現在多くの街で、企業で、自信喪失している日本人に何か応用できるヒントが隠されているのではないか、と感じました。

(上毛新聞 2005年12月25日掲載)