視点 オピニオン21
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サポートハウスなずな理事長 福島 知津子さん(渋川市祖母島)

【略歴】立正大、仏教大卒。精神保健ボランティア活動を通じて障害者と出会い、NPO法人サポートハウスなずな設立。障害者の地域での生活をサポートしている。

障害者の自立のために


◎「一人でない」の確信を

 四月三十日生まれのラブラドール犬が一カ月後、わが家にやって来た。作業所と家との往復でどうにか育っている。成犬の大きさになり、朝晩の散歩も距離が延びて、中年の足腰に弱さを感じる私にとって、彼はよき指導者である。朝六時と夕方は作業所のメンバーが帰った後、かならず散歩と排せつに呼ばれる。彼に出会ってから犬友達も増え、マナーも教えてもらった。乳犬のころからたっぷりの愛情とゆるやかなしつけは、今の彼を少し大人にさせている。

 ある朝、夫と口論になった。すると、鎖がいつ解けたのか、私のひざに乗って手をかんで“やめろ”と言っている。毎月の忙しさに、一言も声かけをしない日や、疲れてイライラしている時ほど、私に近くに来いとほえる。少しのスキンシップでも、彼は私にたくさんの潤いを与えてくれる。三十年前の子育てが思い出されて、愚かな親だったと、息子たちの顔をちらりと見てしまう。

 最近、作業所を訪ねてくださる方々の中に、幼いころの愛情の受け方によって、心の中に潜在していた不満や不安が、月々の生活に影を落としているような相談が多い。また、愛情のかけ方が少し違っていたのかなと思う青年や女性が、親元を飛び立てないでいる相談も多い。

 先日、大手スーパーで、幼女がワゴン車でふざけて落ちてしまった。「痛いよ、痛いよ」と泣け叫ぶ子の近くに、母親が乳児を抱いて見ていた。「お前が悪い」と盛んに怒鳴っている。早く抱きしめて「痛いの痛いの飛んで行け」とか言って頭をなでてやるのかな、と遠くで見ていた。泣きやんだ女の子がまたあちこち歩き始め、私の近くに来たので、何げなく「いい子ね」と頭をなでてしまった。女の子の頭の後ろに大きなこぶができていた。ちょっと抱きしめてあげたいと思った。

 作業所のメンバーも毎日にぎやかで元気がいい。独り立ちできるよう仲間同士、日々頑張っている。障害の別なく誰にも優しくする。一人でできることを増やす―を中心に活動してきた。それぞれの家庭で育ち、親の愛を受けて巣立とうとしている。年齢に関係なく、心の自立は緩やかである。

 障害ゆえに、親の愛をどう受け止めているか分からない。しかし、抱きしめられて安堵(あんど)する経験を多く持つことは、心の安心、安定をもたらすものと思う。

 また、親亡き後のことは障害の別なく、親の誰もが思う最大の心配事だろう。地域で人として自然に暮らしたいと願っているメンバーは孤立することなく、人に支えられているという実感と確信が必要に思う。同時に、障害があろうが、自分は自分であることを受け止め、未来を信じることが大事だ。そのため、皆にはいつも「一人じゃないよ」と言っている。

 毎朝の散歩で、吹く風の冷たさがほおを打つ。障害のある人たちに冷たく吹きつける障害者自立支援法は、今後どんな状況で彼らを悩ませるのだろうか。各市町村の福祉計画の中に、ぜひ当事者の声を反映してほしいものである。

(上毛新聞 2006年1月3日掲載)