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弁護士 小林 宣雄さん(前橋市荒牧町)

【略歴】沼田高、中央大法学部卒。54年司法試験合格。58年から地裁判事を務め、83年前橋地裁の裁判長就任。90年依願退官。群馬公証人会会長。02年から弁護士。

遺産相続


◎望まれる「遺言」の活用

 「生者必滅」とは、この世に生を受けたものにとって、誰にも避けられない宿命。祝福を浴びて誕生した赤ちゃんも、いずれやがては年を経て、葬送のお悔やみを受ける身となる。その間、汗水を流し、苦労を重ねて蓄積した財産もしょせん「あの世」へは持っていけない。「この世」の誰かに残して去らなければならない。こうして、いわゆる遺産相続の問題が浮上する。

 現行法は、いわゆる法定共同相続制を採っている。つまり、誰が誰の遺産をどのようにして相続するかを、いろいろと取り決めている。親が死亡した場合、残された片親(配偶者)が遺産の二分の一、残りを子供たちがその頭数に応じて均等にそれぞれ相続する、というのが典型的なケース。

 こうした場合、相続財産(遺産)には、不動産、預貯金、現金などに、いわゆるプラス財産だけでなく、借財などのマイナス財産も含まれることは大方の知るところであろうが、一見、相続財産に見えて、その実そうでないもの、あるいはその逆のものもあり、このあたりに誤解があると、ときに遺族間にトラブルを招くことにもなる。

 まず、家系を示す系譜、位牌(いはい)や仏壇などの祭具、墓地墓石などのたぐいは、一般の相続財産とは切り離されて別枠で処理され、被相続人による生前指定、それがなければ慣習によって決まる、いわゆる祖先祭祀(さいし)主宰者によって継承される仕組みとなっている。

 次に、受取人が被相続人以外の者に指定されている被相続人の生命保険金や、死亡退職金も相続財産にはならない。指定受取人が法定相続人のうちの一人であっても同じこと。他の相続人はその分け前にあずかることはできない。ただ、この場合の指定受取人は、実質的には被相続人から相続に近い特別の利益を受けたことになるから、遺産分割の際、いわゆる特別受益者としてそれ相応の扱いを受けることになるだろう。

 次に、世上しばしばトラブルの種となるのが香典とか弔慰金とかいわれるお金。香典には、故人への供養の趣旨も含まれているが、本来は故人の葬式費用の一部を負担することを意図して喪主に贈られるお金、と一般に理解されている。となると、それはいわゆる相続財産とはいえないから、喪主以外の相続人がその分配にあずかることはできない、という道理になる。弔慰金については、その実質的趣旨に従い、あるいは香典、あるいは死亡退職金として扱われることになるだろう。

 また、共同相続人のうち、被相続人からその生存中、婚姻あるいは生計の費用として金品の贈与を受けた者がいるときは、その価額も遺産に加算され、この相続人は、この受益分を加算遺産総額についての自己法定相続分から差し引かれることになる。そのほか、遺産相続をめぐっては、いろいろなトラブルの発生が予想されるが、これを未然に防止するには「遺言」の活用が望まれる。

(上毛新聞 2006年1月4日掲載)