視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
東京農工大学名誉教授 鹿野 快男さん(高崎市城山町)

【略歴】東京都出身。明治大大学院博士課程修了。主な専門は磁気回路、リニアモーターなど電磁機器の福祉機器への応用研究。元国立公害研究所客員研究員。現在、ヤマト環境技術研究所顧問。

アメリカンドリーム


◎新しい価値観の創出を

 アメリカンドリームという豊かな生活の見本がアメリカにある。貧しくても、学歴がなくても、努力をした結果、運がよければ億万長者になって、高級住宅街ビバリーヒルズのプール付き住宅に住めるなどという夢である。努力した者に富が与えられ、平等な自由競争の希望ある社会というのは、これにあこがれ、これをよしとするのに説得力がある。

 フォードが始めた自動車の分業式大量生産に象徴されるように、アメリカは安価に物を大量生産し、それを大量消費する工業生産で豊かな生活を築いた。また、広い大地での大規模農業で農産物を安価に生産し、輸出して富を得た。IT(情報技術)、バイオの技術でも世界をリードしてきた。一方、その経済活動で得た大きな資本を動かして、金融市場でも世界をリードしている。

 このことを環境保全の立場から考えてみよう。このアメリカンドリームを夢とする社会を維持するために、世界一多量のエネルギーと資源を消費している。原子力百科事典によると、「二〇〇一年の時点でアメリカの人口一人あたりのエネルギー消費量は日本の二倍以上であり、中国、ロシアも着実に増えている」という。

 日本もアメリカが示した豊かな社会にあこがれて、工業立国として経済を発展させ、自由競争で右肩上がりの経済成長を求めてきた。経済学者や政治家、マスコミも常に右肩上がりの経済成長ばかりを問題にしてきた。バブル経済という経済成長が大きいときは、未来学者というえたいの知れない学者が現れて「これからはモータリゼーションの時代です」などと言って、車社会をあおり立てた。その結果、どういう問題が起こるから気をつけろ、とは決して言わなかったと記憶している。

 数パーセントの経済成長があるということは、それと同等か、それ以上の資源・エネルギーの消費があるということである。さすがに最近では単純な経済成長ではなく、永続性のある経済活動などと言い出した。これは一歩前進と評価したい。

 多くの人間がアメリカンドリームのような欲望の達成だけを目的にしたら、地球温暖化など環境破壊が急速に進み、人類、地球の将来はないと思う。幸い、ゆっくり食事をするスローフード、生活に余裕を持ったスローライフを取り戻そうとか、年収が少なくても農村や過疎地に移り住んで、自然にとけ込んだ穏やかな生活を見直そうとする人々が現れた。単純な物質的欲望の達成を目標にしない、何か別な価値観を模索しつつあるようである。

 こういう新しい価値観の創出が、人類の健全な存続を決定付けるだろう。この問題は人間の本能に近い欲望に起因する。それだけに解決は非常に困難であるが、英知で克服しなければならない問題だ。新しい価値観の創出、これが人類に突きつけられた重要課題である。

(上毛新聞 2006年1月12日掲載)