視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
国際協力出版会編集部 富田 映子さん(東京都大田区)

【略歴】前橋市出身。前橋女子高、津田塾大卒。マドリード大ディプロマコース修了。JICAの関連組織勤務を経て、97年版から「人間開発報告書」日本語版の翻訳・編集を担当。

女性の社会参加


◎能力あるが選択肢狭い

 国連開発計画(UNDP)が発行する『人間開発報告書』では、一九九五年以来、女性の社会的・経済的進出度を示す指数を発表しています。この指数、「ジェンダー・エンパワーメント指数(GEM)」は、世界各国の女性が経済・政治活動を通し、自国の行方にどの程度影響力を持っているかを測るもので、実際には政治的意思決定への参加の度合い(女性国会議員の割合)、社会参加の度合い(女性の専門職、技術職の割合)、女性の経済力(女性の勤労所得)から算出されています。

 昨年九月に衆院選が行われ、女性議員の話題もマスコミで多く取り上げられましたが、同月に発表された『人間開発報告書2005』によると、日本のGEM順位は世界で四十三位でした。日本は先進国の中では極端に低く、メキシコやタンザニアを含む開発途上国十一カ国が日本の上に位置しています。

 〇五年の報告書によると、日本の女性国会議員の割合は9・3%です。国民の半分が女性であることを考えると、国会という国の最高意思決定機関で女性を代表する数としては非常に低い数字です。また、国会議員、政府高官、管理職に占める女性の割合も10%と、男性との不均衡が際立っています。

 GEMはデータのそろっている国が限られるため、毎年八十カ国前後の中での順位になりますが、九五年から〇五年までの最高順位が二十七位という事実を見ても、日本の女性が政治活動や社会経済活動で十分な影響力や発言力を得ていないと推測できます。

 経済力の指標となる勤労所得では、男性一に対し女性は半分以下の〇・四六になっています。ちなみに、内閣府のホームページを見ると、米国、ドイツ、フランスなどでは、結婚、出産、育児期に労働力の減少が見られないのに、日本ではその時期に就業率が極端に落ち込むM字型を描いていることが指摘されています。

 女性にとって、この時期の仕事の中断が、その後のキャリア形成や賃金の伸びの障害になっていることは、間違いありません。一度家庭に入ったら、再就職することが困難な雇用状況も、それに拍車をかけていると考えられます。

 『人間開発報告書』では、「人間開発」を、人々が人生のさまざまな機会をとらえ、自らの望む人生を送るための選択の幅を広げること、と定義しています。そのような視点から見ると、日本の女性は十分な教育を受け潜在能力を持っているのに、社会参加への選択肢が狭いといえます。

 国民の半数が能力を発揮しにくい不均衡な状況にあるのは不自然ですし、真に豊かな社会をつくる上での障害にもなるでしょう。世界には、女性の社会参加を促すために、議員や管理職に占める女性の割合を法律で定めている国もあります。このような積極的是正措置の是非も含め、これらの問題を真剣に検討する必要があるのではないでしょうか。ジェンダーという視点からわが国をとらえ直したとき、より豊かな未来が見えてくるように思われます。

(上毛新聞 2006年1月17日掲載)