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東京福祉大学教授 矢端 義直さん(前橋市若宮町)

【略歴】文部省社会教育局、総理府青少年対策本部、国立赤城青年の家、県教委、県立青少年教育施設などを経て、05年4月から現職。専門は生涯学習、社会教育。

定年迎える団塊の世代


◎地域再生の担い手に

 地域再生の新しい主体として注目されている活動にボランティアがある。

 ボランティアに全国民的な注目が注がれるきっかけとなった大きな要因に阪神淡路大災害があるが、震災ボランティアのみをしてボランティアを限定するものではないことは、誰もが認めるところだろう。

 もう一つの要因には、「生涯学習で学んだ成果」や「長年培った経験や知識」を地域等に生かすといった時代の流れがあり、その活動が各地で隆盛になってきたことが挙げられる。

 こうした隆盛の背景には、国の生涯学習審議会による「生涯学習の成果を幅広く生かす方策」(平成十一年六月)の提言があり、これを基に活動の輪が着実に拡大してきたことは間違いない。

 審議会の報告は、地域社会でのさまざまな課題を解決するためには、住民の一人一人がそれぞれのニーズに応じて、問題解決を目指して学習し、積極的に地域社会にかかわっていく姿勢を持つことの重要性を指摘しており、さらに人々の触れ合いや仲間づくりの機会が豊かな人間関係の形成や地域社会の活性化につながる、と述べている。

 かつてのわが国は地縁関係で結ばれ、自分たちが住む地域は自分たちでといった「相互扶助的」な地域社会であった。

 それが、戦後の急激な社会構造の変化とともに地域づくりの主役であった住民の影が薄くなり、変わって行政に依存するという姿勢が常態化してきたといえる。

 しかし、一九九〇年代以降の日本社会は、景気の低迷、高齢化の加速度的進行、犯罪の低年齢化や凶悪化等さまざまな問題が噴出してきた中で、地域の再生は行政にばかり依存するのではなく、地域社会が内包するさまざまな課題を住民自ら解決することが重要であるという機運が高まってきた。

 折しも「団塊の世代」といわれる人々が間もなく定年を迎え、家庭や地域に戻ってくる。この世代は戦後間もないころ、地域を庭のようにして群れを成してエネルギッシュに遊んだ体験を持っている。この人々に地域再生の担い手として、今後の活躍を期待したい。

 このような世代を意識してだろう、県生涯学習センターでは団塊世代を対象に地域づくりへの参加を期待した「団塊世代の支援講座」が人気を呼んでいる。現在も継続的に開催しているので、多くの人に参加を勧めたい。

 千葉県我孫子市での取り組みを紹介したい。会社人間であり続けた団塊世代が、定年と同時にいきなり地域の課題に取り組むのは難しい。そこで「福祉」「健康」「教育」「青少年健全育成」「スポーツ」「自然」「文化」「防犯・防災」等の既活動団体が結集して、定年を迎える世代の人々に関心のあるボランティアやNPOの活動を一定期間体験してもらい、その後、豊かな経験や知識を生かして自分に合った活動をしてもらおうというものである。

 定年後の生きがいづくりを支援する事業として注目したい。

(上毛新聞 2006年1月19日掲載)