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館林第十小学校長 青木 雅夫さん(館林市松沼町)

【略歴】群馬大教育学部卒、兵庫教育大大学院修士課程修了。県自然環境調査研究会会員。県小学校教育研究会理科部会長、館林市小学校理科部会長。

外来種の侵入


◎遺伝子レベルから変化

 私たちの生活が、神経質で何でも他人に責任を押しつける自分勝手な風潮がまかり通っているうちに、自然はそれをなじるように牙をむいてくる。多くの自然災害がそうではないかと思わせる節がいくつもある。その多くは解明できぬままに、後になって人は後悔するのだろうと思う。人間が最も忘れているのは自然に対する畏敬(いけい)であるとのゲーテの言葉を、どこかの本で読んだことがある。足下から自然を見直そうというのが私の主張である。

 白い花の咲くキク科タカサブロウ属の野草がある。田畑の雑草タカサブロウは普通に見られる野草で、やや湿った田畑に生育する。『牧野新日本植物図鑑』や『長田図鑑』などではまだ区別が明らかでなかったが、熱帯アメリカ産のアメリカタカサブロウが認識されるに従って、次のようなことが分かってきた。在来のタカサブロウがアメリカタカサブロウに置き換わっているのではないかということだ。

 耕作地内の雑草であるから問題にしなくてもよいレベルだろうが、稲作にかかる耕作地の雑草を一つとってもこのような外来植物の侵入が見られるのである。『長田図鑑』には、タカサブロウの種子のスケッチが描かれているが、これから判断するとアメリカタカサブロウである。在来のタカサブロウは種子に翼があり、区別は比較的容易である。これをモトタカサブロウと呼ぶことにしようということが提唱されている。

 両者は果実の形が全く違うのである。葉の形や茎の下部の様子などにも違いが認められる。今まで農耕とともに慣れ親しんできた水田雑草が外来植物(帰化植物)によって、われわれが気付かないまま、少しずつ入れ替わってきている例はいくつもある。それに気づく度に「おまえもか」と思い、少しずつあるいは急激に、しかも確実に変化していく野草の世界に驚嘆するのである。

 同じ水田雑草の中に、教科書にも載っていたスズメノカタビラというイネ科イチゴツナギ属の野草がある。これは春先に水田に現れるものである。しかし、今ではほとんど一年中、庭にも道ばたにも、雑木林の縁にも見られる。これはスズメノカタビラでなく、ツルスズメノカタビラあるいはアオスズメノカタビラというヨーロッパ原産の外来植物で一年中、消長を繰り返している。そして今どんどんその生育域を広げている。

 昔から稲を作っていた方なら、かつてのスズメノカタビラと現在見るスズメノカタビラと様子が違っているのが分かるであろう。古い田畑の中や縁、棚田などには従来(古い時代の帰化植物)のスズメノカタビラが散見されるが、典型的なスズメノカタビラを見つけるのは容易ではない。

 このように、同じような外来植物が侵入してくると、在来種との混血が起こってくる。現に日本産タンポポもセイヨウタンポポとの雑種が見いだされており、このままでは、生物界の種が遺伝子レベルから変化してしまい大変なことになりはしないかと心配している。

(上毛新聞 2006年1月23日掲載)