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俳人・古本屋経営 水野 真由美さん(前橋市千代田町)

【略歴】和光大卒。80年前橋市三俣町に古本屋・山猫館書房を開く。句集「陸封譚」で第6回中新田俳句大賞受賞。俳句誌「鬣(たてがみ)TATEGAMI」編集人。

前橋文学館


◎欲しい資料の検索機能

 さすがというべきか。「絹の国俳句ラリー」で選者兼講師の金子兜太氏、昼食直後の八十六歳は富岡市の街角で勧められたコロッケをぱくぱく食べ始める。トークの開始時間直前になっても厠かわやから出てこない。待ち構えていたら、「じゃ行こうか」と手ぶらですたすた歩き出した。うっかり、つられて会場に入ったが、聞き役の私まで手ぶらだった。来場者に配布したプリントも質問のメモも、なーんにも持ってない。ぎゃんっ。緊張と焦りで隣を見たら、いつもと同じ顔で椅子(いす)に座っている。あっ、自分もそれでいいんだと思ったら気楽になった。

 トークでは養蚕農家の貧窮や秩父事件も話題に出る。また、当時の富岡製糸場が秩父山中の人たちにとって「天空の城ラピュタ」みたいだったとも語る。さらに終了近くには「萩原朔太郎も●客(きょうかく)肌だったな。こんなこと言った人いないだろ」と言い出した。まったく自在で自由、手ぶらですたすたなのだ。

 酒止(や)めようかどの本能と遊ぼうか 兜太

 元気すぎるぞっ。

 さて、その朔太郎といえば「前橋文学館」だ。「萩原朔太郎賞」の贈呈式、受賞詩人の展示も行っている。また、かつて前橋市立図書館館長だった故・渋谷国忠氏が熱意をもって収集した朔太郎資料も同館に移されたと聞く。

 現在の収蔵資料を知りたいとインターネットで調べてみた。

 「萩原朔太郎記念水と緑と詩のまち前橋文学館公式ホームページ」(長い名称だ。いっそ「前橋市立萩原朔太郎記念文学館」になれば、すっきりするのに)と「前橋文学館」の二つを見る。

 公式ホームページは「萩原朔太郎賞」受賞者の企画展示だけでなく、賞そのものについての記述もあればいいなと思う。また、同館は旅行ガイドなどで「広瀬川河畔に立つ文学館」と紹介されたりしている。せっかくだから川岸に並ぶ受賞者詩碑や詩人の伊藤信吉さんが愛した「石川橋」など周辺の橋を案内したら楽しいだろうな。

 と寄り道して肝心の…あれ? 公式ホームページでも収蔵資料の検索ができない!

 リンクしている四つの文学館(神奈川近代文学館、群馬県立土屋文明記念文学館、日本現代詩歌文学館、山梨県立文学館)はいずれもネットで検索できる。うーん。開架式の資料閲覧室があると分かり、訪ねてみた。

 鍵を開けてくれた職員によると、データが整理された資料は一万二千点ほど、この部屋に約六千四百点があるから約半分だ。分野別カードはある。また資料の検索は職員に限るが、問い合わせには対応してくれる(利用者の館内検索はなぜ駄目なんだろう?)。

 でも、私たちは探している資料の有無を知りたいだけではない。これでは索引のない研究書みたいだ。せっかくの宝の山なら見たい、知りたい、触りたい! おっと特別資料は触っちゃいけない。

 宝がちゃんと社会の宝として存在するには、それを探して位置付けるための検索機能という道具が必要だ。無論、予算がなければ始まらない。きっと現場も頑張っているはずだ。フレーフレー!

編注:●は人ベンに峡の旧字体のツクリ

(上毛新聞 2006年2月5日掲載)