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サポートハウスなずな理事長 福島 知津子さん(渋川市祖母島)

【略歴】立正大、仏教大卒。精神保健ボランティア活動を通じて障害者と出会い、NPO法人サポートハウスなずな設立。障害者の地域での生活をサポートしている。

障害者雇用


◎成長受け止めてほしい

 年明けは雪の心配もなく、初詣でに行けた。昨年十月一日に開所したグループホームのメンバー三人と、二つの神社に参拝したが、境内の外にまで行列が続いていた。「どこから出て来るんだろうね。こんなにいっぱいの人たち」。メンバーの言葉に大笑いしながらの参拝だった。愛犬「海人」はというと、作業所での一日を静かに過ごしている。午後四時を過ぎてメンバーが帰るころになると、今度は自分の番と盛んにほえて甘える。

 一月、雪に悩まされた日は少ない。豪雪に苦しむ地域から比べると、幸せなことと思う。大学入試センター試験の二日間も、県内は静かだった。夜遅くまで明かりがついている窓に、風邪をひかないで頑張れと思いながら眺める日も、あと少しだろう。卒業を迎え、社会に巣立つ若者たちと同様に、サポートハウスなずなにも就労に向けた巣立ちを待つメンバーがいる。

 昨年、三十代のメンバーにぴったりの就職先が見つかり、雇用された時はみんなで喜んだ。作業所に四年間いた経験と成長が、うまく実を結びますようにと願っていた際、雇用サポーターさんの「雇用主さんにとても褒められて、本人も頑張っていますよ」という報告を、喜々と聞いた。一方で四年間、仲間といつも一緒に頑張っていた姿がないため、寂しさが日増しに強くなっていったことも事実である。

 作業所の近くにある酒店に「わさび」という名の老犬がいる。就職したこのメンバーは、毎朝夕に「わさび」の所に通っていた。定時に会いに来るメンバーが姿を見せなくなったとき、その酒店主が「○○ちゃん、来ないねえ」と言うと、「わさび」は通りの方をじっと眺めているという。この姿には、わき上がるような寂しさを感じた。

 就職して数カ月がたち、このメンバーが作業所にひょっこり現れたことがある。そして数カ月後、持病のアトピーが原因で職場を去り、作業所に戻ってきた。解雇されたわけではなく、長く勤めていく上でのご両親の決断だったという。えらくしょんぼりしていたが、私は「挫折じゃなくて、成長したんだものね」と声を掛けた。仲間の優しさに元気を取り戻し、今は再就職に向けて頑張っている。

 作業所での一日は忙がしい。数種類の作業を、それぞれの持てる力をつなげてこなしている。そうした作業をこなしていると、本人の気付かない力が発見できる。就職では接客業にこだわっていたメンバーが細かい作業に興味を持ち、繰り返す中で分野の違う就職にチャレンジできるかもという自信も生み出している。

 納品に追われる作業のイライラした状況の中で、お互いの心遣いの一言や動作がメンバーの連携と責任感を育て、ぐんと作業能力を上げる。障害者雇用は、まだまだ理解が浅い。しかし、彼らは日々、成長している。どうか確実に受け止め、試してみてはくれないだろうか。失敗しても、また立ち上がる力を、彼らは限りなく持ち合わせている。その姿に力をもらいながら、援助の工夫を日々考える毎日である。

(上毛新聞 2006年2月26日掲載)