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平方学園創世中等教育学校長 桜井 直紀さん(前橋市青梨子町)

【略歴】東京教育大卒。高校教諭、県教委青少年課長、学校指導課長、沼田女子高校長、高崎高校長を経て前橋市教育長。05年から現職。県子育連学術委員。

学校教育の課題


◎原点へかじを切り直せ

 現在の学校教育では各種の課題はあるが、誰もが求めているものとして、学力の向上を図ること、不登校や生徒指導上の問題を解消することなどがある。これらに対応するために、国や県・市町村の特段の努力のもと、教職員をより多く配置するなどの財政的な援助が行われている。このような対応は大変に結構なものであるが、児童・生徒の学力や非行などの問題はいつも話題になっている。

 学校教育が成果を挙げる上で大切なことは教職員の資質向上もあろうが、基本になるのは先生と子供とのつながりであり、それを可能にするための時間の確保である。例えば、授業についてはクラスの個々の子供に応じた教材を用意することであり、そのための研究が必要である。また、子供の心の問題に対しては、時間をかけて話を聞いてやらなければならない。これらに対応するだけでも、相当な時間が先生方に必要である。

 ところで、学校には企業や官庁、大学や専門学校などからの絵画、標語、作文の募集などの依頼も相当数にのぼっている。児童や生徒がこれらに応募することは、個々の有する能力などの伸長を図る上で大きな意義がある。しかし、そのためには先生方は募集の趣旨説明や提出された作品の点検などの多くのことに取り組む必要がある。

 また、学校には行政機関などから教育課程の作成や実施状況、児童・生徒の安全確保のための点検項目作成などをはじめとする各種の調査やその報告が求められる。これらの多くのものが学校に集まることによって先生方の忙しさが増加し、結果として本来的に取り組むべき子供への指導の時間が減少することの一因にもなっているのではないだろうか。

 さらに、学校教育には環境、自然保護、エネルギー、食の教育などに取り組むことが求められており、すでに教科等の中で扱われている。今後はこれらのテーマの扱いを一層重視していかなければならないし、そうすることが社会全体から期待されている。さらには、今後生じてくるであろう新しい課題も学校教育の中に組み込んでいくことが予想される。

 学校教育が本来的に取り組むべき事項に十分な時間がかけられるようにしていく上では、まず学校自体が現在取り扱っている業務内容を見直し、自らの手でスリム化を進めることである。また、行政としても学校に任せるものは何かの観点に立って、各種の通知内容等を全般的に見直しを図っていくことが求められる。

 これからの時代を考えれば、今までの延長線上でものごとを考えるのではなく、見直すべき点を思い切って見直すことであり、教育の原点に立ち返るよう大きくかじを切り直すことである。そして、学校の責任者である校長には、それに対応できるだけの権限が与えられている。校長の指揮監督のもと、教職員が十分に力を発揮することが、教育の課題解決に向けた新たなスタートとなる。

(上毛新聞 2006年3月2日掲載)