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東京農工大学名誉教授 鹿野 快男さん(高崎市城山町)

【略歴】東京都出身。明治大大学院博士課程修了。主な専門は磁気回路、リニアモーターなど電磁機器の福祉機器への応用研究。元国立公害研究所客員研究員。現在、ヤマト環境技術研究所顧問。

ルクス症候群


◎一定の範囲内で競争を

 エジソンが白熱電球を発明したことは、よく知られている。白熱電球がこの世にない世界は想像もできない。ろうそくや灯明、ガス灯の明かりしかない時代の生活は夜、暗い闇に閉ざされて不便であったであろう。

 今は白熱電球、蛍光灯、水銀灯、ナトリウム電球と改良されて、大変明るい。最近ではさらに高輝度発光ダイオードが現れ、明るくて交通信号灯などに使われ始め、省エネが実現されつつある。喜ばしいことである。

 しかし、まだまだ従来の照明が使われており、大都市の繁華街は真夜中でもこうこうと電球が輝いている。昼間のように人々がそぞろ歩いていて、驚くばかりである。

 真夜中の住宅街のコンビニエンスストアも、周りの暗さに比べて真昼のように明るい。明るくして気分を高揚させ、購買意欲をかき立てるためらしい。他の広告照明も明るく、ネオンサインも原色鮮やかに大変な明るさである。そうもするうちに何とかタワー、何とかブリッジがライトアップだと言って輝いている。何万個の電球で飾り付けたという電飾街も出現した。

 必要以上に明るくするのを「ルクス症候群」と言うそうである。二酸化炭素排出の削減が叫ばれている中、このルクス症候群を直す必要があるはずである。しかし、世の動きはこれを直したり、自粛する方向には動いていない。かつて、オイルショックがあったとき、ほんの一時的にライトアップを中止したときがあった。しかし、のど元過ぎれば何とやら…。今は京都議定書を批准しないアメリカを非難することが話題になっても、われわれの過度な照明、ライトアップ自粛の声は聞こえない。

 日本の多くの人は暗闇の怖さを忘れている。真っ暗な道を歩いて、自分の足音を聞いて、誰かが追いかけてくるような錯覚におびえた経験はあるのであろうか。この暗闇はあらためて、われわれが自然の中に生きていることを教えてくれる貴重な体験のはずである。

 エジソンは素晴らしい発明をしてくれた。しかし、それをわれわれ人間の利器にするか、環境破壊の凶器にするかは行動に掛かっている。

 自然の闇の貴さを取り戻すと同時に、エネルギーを節約して環境保全に役立てたい。このような話は総論賛成、各論反対になりかねない。

 そこで、皆の合意さえできれば実行できる提案をしてみたい。それは広告照明、店内照明、道路・アーケードなどの照明を必要以上に明るくしないで、一平方メートル当たり何ルクス(消費電力何ワット)以下と合意することである。その範囲内で工夫を凝らして自由競争する。自由競争にも秩序と節度が必要な時代が来ているのではないだろうか。その一つとして提案したい。

(上毛新聞 2006年3月7日掲載)