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NPO法人アジア交流協会理事長 石川 正安さん(前橋市荒口町)

【略歴】山口県出身。タイヤメーカー勤務を経て前橋市立工業短大で土木、建築を学ぶ。69年に市内で測量業を創業。03年にアジア交流協会を設立。元少年指導委員。

カンボジアへの支援


◎リーダーの育成が急務

三十代のはじめごろ、尊敬する先輩(故人)から「人生の半分は両親と先輩から頂いたものである。残りの人生は世のため、人のために尽くせ」と指導された。
 当時はどういう意味か理解できず、もんもんとした日々を送っていた。五十代のはじめごろから先輩の言葉を強く意識するようになり、自分なりに到達した結論は、個人や家庭を大切にしながら周囲を見渡し、世のために何ができるかを考えるようになった。その方法としてボランティア活動への道を歩むことを決意、既に十五年の歳月が経過した。タイやカンボジアでの教育支援や物的支援、さらに昨今ではラオスへの教育支援活動も開始した。
 日本では考えられないことが発展途上国には存在する。これまで話には聞いていたが、その「まさか」の現実に出合った。
 カンボジアの首都プノンペンでの出来事である。当協会のカンボジア人スタッフがボランティアとして活動している「日本語・カンボジア語友好学校」が延焼で焼失した。消防車は既に十台程度到着していたが、一向に消火活動をしない。一軒あたり五百ドル程度のお金を支払わないと、消火活動をしないとのこと。結局、三十四軒が消失した。
 五百ドルはプノンペン市内の四人家族の平均年収に匹敵する。交通事故、急病人しかり、この国ではすべてがお金の社会である。消防士や救命士は薄給である。家族の生活が優先する。人の不幸であろうが、理由を問わずお金を取る。日本では誰でも水道の水が飲めるが、カンボジア人はお金がなければ泥水を飲むしかない。結局、マラリアや赤痢などの病気で死亡する。五歳未満の幼児の死亡率はなんと40%に近い。
 現在でも、学生たちは自国の経済、歴史、文化をほとんど知らない。ポル・ポトの残党が生存しているため、ゲリラ闘争を恐れ、学校では歴史はおろか経済も教えない―とカンボジアの知識人は話していた。この現状を当たり前と学生たちは思っている。
 今年一月下旬、教育里親制度で里子を支援(年間一万五千円)している県内外の里親五人がカンボジアを訪問し、里子との初面会を果たした。お互い初めての出会いで、言葉も通じないのに真の親子かと思うほど感動的な出会いであった。別離の時の涙には、私ももらい泣きをした。
 今回、コンポントム州に寄贈した「日本語・カンボジア語友好学校」では、午後六時から一時間単位で計二時間の日本語の教育をしている。ここで里子たちは無料で教育が受けられる。発展途上国では食料等も大切だが、教育の必要性を痛感した。教育里親制度を立ち上げて良かったと思っている。
 この国へ図書館や学校、深井戸などを寄贈し、病気のまん延防止、経済的に通学できない子供たちへの教育支援活動をしているが、この国を背負って立つリーダーの育成が急務と感じる。

(上毛新聞 2006年3月10日掲載)