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柏レイソルチーフスカウト 小見 幸隆さん(神奈川県川崎市)

【略歴】東京都出身。サッカー元日本代表。69年読売クラブ入団。84年天皇杯優勝、85年現役引退。92年U―17日本代表コーチ、01―02年東京ヴェルディ1969監督。昨年末までFCホリコシ(現・アルテ高崎)監督。

日本のサッカー界


◎手を抜けない若手育成

何かと世の中を騒がせている大人たちがいる。しかも、若い世代から「最近のおやじたちは…」と逆に思われているような嫌なことが多い。それこそ、衣食住の生活の基礎が全く不自由なく、余裕のある人間、またはそれ以上の人間が犯している事件である。
 ひと昔前、よいサッカーマンを育てるには少しの貧乏がよいなどと、父兄たちにしゃべっていたことを思い出す。自分の親や祖母などによく言われたり、しかられたりした中に「勉強ができなくてもいい。健康で物事の善悪が分かる人になれ」と、自分にも子供にも言い聞かせるキーワードのようなものがあった。成績の悪い子には救いでもあったのだが、昨今、お騒がせの人たちに聞かせたい言葉だ。
 落ち着いて考えてみると、ひとつの事柄に対し、真実は何? 本物とは何? 善悪とは何? とあらためて追求しないと、人なんてそんなに頭がいいわけじゃないんだ、と感じてしまう。
 さて、そんな事件を扱うテレビのワイドショーだが、スポーツコーナーに移ると美談が多く、努力、謙虚…と、見ていて気分がよくなることもある。しかし、サッカーの世界も真実の追求、本物の追求、勝負への追求のほか、忘れてはいけない善悪の問題がある。幸い、私はいろいろな世代、カテゴリーの中で名監督と呼ばれる人物、エキスパートといってもいい人物と会うことがある。
 高校サッカーの正月の選手権には常連のある高校の監督だが、勝つことへの探求はもちろん、生徒の家族との付き合いや進路への対応、職場や自分の家族との関係等々、とにかく忙しい。本人は自らをわがままだと言うが、私は彼こそエキスパートだと思っている。
 だが、W杯の日本代表に頼りがちな日本のサッカー界には不安を感じる。何人かの代表選手はすでに本物を語れるし、理想のモデルになってくれると思うが、指導的立場にある人やサッカーを語る大人がいま危ういのかもしれない。
 格好からは、アマチュアといわれる層や少年、少女がプロを支え、代表チームをつくっている。南米やヨーロッパへ行けば、六十代、七十代の元選手や指導者がまた、それぞれの立場で働き、サッカーと選手を愛している。日本もそうなりつつあるのだろうが、いまだに若いし、いろいろなパートで未発達だ。
 私が今所属する柏レイソルも、まさに日本サッカー界の歴史をつくり、現在も歩んでいるクラブである。J2に落ちたことは、勝負事だから仕方ないではなく、リセットボタンを押す最高のタイミングであると思っている。このクラブが到達しなければいけないこと、プロのクラブとして成功しなければならないことを背負っている気がする。
 時間が必要なものもあるが、今やっておけば時間が解決し、導くものもたくさんある。特に若手の育成強化には手を抜けない。特に高校を出てから二、三年は、プロのクラブでも指導法に気づかない分野の一つである。レイソルはそれをテーマの一つにしたい。

(上毛新聞 2006年3月11日掲載)