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県立尾瀬高校自然環境科主任教諭 松井孝夫さん(沼田市利根町)

【略歴】92年千葉大卒。西邑楽高を経て、97年尾瀬高教諭となり、翌年から現職。同校理科部顧問。ぐんま環境教育ネットワーク代表理事。

卒業後の生活で役立つ


◎体験型の環境学習

持続可能な社会の構築のために策定された国の環境基本計画(平成十二年)には、さまざまな施策が示されており、その中には「環境教育・環境学習の推進」も含まれています。
 環境教育は、小中学校等でさまざまな考え方や方法で実施されてきており、環境汚染や自然保護などはもちろん、エネルギー・食・歴史・文化などについて、幅広く学習が進んできていると感じます。
 ところで、環境基本計画は、多面的な学習による問題解決能力の育成として、次のように示しています。
 「多様で複雑な環境問題を理解し、解決に向けて行動するためには、問題を全体的にとらえる必要があり、環境に関する知識の習得に加え、感性や倫理観、多面的に物事を考え、自ら課題を見つける能力、問題を多角的に分析する能力、さまざまな主体間の調整を行うために互いにコミュニケーションを図る能力などを育成していくことが必要です。このため、『体験を通じて、自ら考え、調べ、学び、行動する』という過程を重視した学習を推進します」
 高等学校の環境教育においては、この中で特に「行動する」ことを重視し、単なる知識や技術の習得のみにとどまらないように配慮しなければなりません。そのためには、自然のことだけではなく、「人と自然とのかかわり」や「人と人とのかかわり」について、自然や人から学ぶことが大切です。
 本県においては、この分野での中核校として、自然環境科を持つ尾瀬高校が平成八年に誕生しました。そして「自然との共生」をテーマに、尾瀬や武尊山など本県の豊かな自然の中で、自らの体験を重視した環境教育に取り組んできました。自然観察や環境調査、自然体験などの数多くの校外実習を、大学の先生や地域で活躍している社会人の講師の指導により実施しています。
 また、小中学生や高校生相手の自然観察ガイドや自然体験プログラムの実施など、多様な立場や年齢の「人」とのかかわり合いがあるという特徴があります。
 今月一日、この特色ある教育を受けるために、遠方から地元の家庭にホームステイして生活してきた十三人を含む自然環境科第八期生が卒業しました。
 彼らの卒業文集には、「コミュニケーション能力」の向上や「主体性」「おもいやり」「協力」「自己を見つめること」「人と人とのつながり」の大切さ、「広い視野」を持つことの重要性を意識した―といったことが書かれていました。彼らがそのような認識に到達できたことは、体験型の環境学習の成果として読みとれます。
 また、彼らは身につけたことが必ず卒業後の生活で役立つと確信しています。それは、在学中もリアルタイムで、人と人とのかかわりの中で役立っていると実感しているからです。環境学習は「後で役に立つ」ものではなく、「今役立つ」生きた学習なのです。「自然との共生」を目指してきた彼らの今後の「行動」に注目してください。

(上毛新聞 2006年3月12日掲載)