視点 オピニオン21
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三洋工業総務部顧問 荻野 千槍さん(前橋市南町)

【略歴】前橋高、同志社大法学部卒。東京で上場企業二社の人事部長、役員を務め、現在三洋工業本社勤務。日本経団連東京経営者協会支部幹事、日本労務学会会員。

旅に出て思う不易流行


◎本質を見失わないで

 ワイキキ沖上空からダイヤモンドヘッドを眺め、ハワイから去るとき、「また来るからね!」と別れを告げた。それから六年後の二月下旬、再びハワイを訪れる機会を得た。前回は妻との二人旅だったが、今回は二歳十カ月と一歳の孫を含め、家族七人の旅である。現地に着くと、やはり時はゆっくりと流れていた。トロリーバスの運転手が明るくあいさつ。博愛の精神が健在で、人を大事にする「アロハスピリッツ」が至るところにある。

 少しは変化しているのだろうが、すべてのものの調和をベースとした昔のハワイの文化を感じる。日本も「自然」と調和して生きていくのがベースだったはずだが、今はどうだろうか。俳人、松尾芭蕉の言葉に「不易流行」というのがある。「不易」とは時代を超えて不変の真理、「流行」とは変化を意味し、その元は一つであるというもの。この言葉を旅先のハワイで思い出すこととなった。

 一つは、先のアロハスピリッツである。あいさつに始まり、あいさつに終わる。時代が変わっても調和を貴び、伝統や人間愛を大事にしている。

 二つ目は、ワイキキビーチの水族館を訪れたときである。トロピカルフィッシュやクラゲの生態を見た後、水槽の中に大きなオウムガイを間近に見た。「生きた化石」といわれているが、代表的な頭足類で、太古の時代から殻を持ち続けている。イカやタコは、ある時期、新たな戦略として貝殻を捨て、変身した。オウムガイは原点、不易であり、イカやタコは新たな環境への適応をはかって変化した。しかし、その元は「生きること」であることに変わりはない。

 三つ目は、ホノルルの街づくりである。常識とは異なり、ここは公園の中に都市がある感じだ。公園の中にビルがあり、ビルの中にまた公園がある。公園とビルのコラボレーション(協働)だ。張り紙やネオンもなく、オレンジ色の明かりで統一している。新しいビルは多く建設されているが、守るべきものはしっかり守っている。

 この時代、変化がすべてと勘違いし、変化の表層にばかり目を奪われがちだが、多様性を尊重し、長期的な視点に立って、何が本質なのかを見失わないようにすることは大切だ。そして、偏らない正しい判断ができるように努めたい。「変えてはいけないことを変えてしまい、変えなければならないことを変えようとしない」。そんな事例を見ることは残念である。

 いつもの生活から離れると、人生や家族のことを考えることがある。旅の目的はそこにもあるのだろう。そのため、東洋哲学の本を二冊バッグに忍ばせた。ダイヤモンドヘッドに虹がかかるホテルの窓辺で、ゆったりと読書するのが夢だった。しかし、短パンとTシャツ姿でビールを手に二十階のバルコニーにいたら、涼風が気持ちよく、いつの間にか夢の中に遊び、その願いは今回も果たせなかった。

 ホノルル空港を離陸するとき、窓をのぞいていた孫が「ハワイ バイバイ!」と何度も言った。六年前の別れを今度は孫がしてくれた。

(上毛新聞 2006年3月26日掲載)