視点 オピニオン21
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沢渡温泉病院言語聴覚士 長谷川 靖英(中之条町西中之条)

【略歴】93年国立身障者リハビリセンター学院修了。同年から沢渡温泉病院に勤務。05年6月「Q&A『きこえ』と『ことば』の相談室」を翻訳出版した。


ほほ笑み

◎子育てしやすい社会に

 もしスーパーマーケットで見知らぬ子供と目が合ったら、あなたならどうするだろうか。たぶん多くの大人は、あまりその子供たちに関心を示すことはないであろう。子供連れをよく見かけても、それが周囲の大人の関心を引きつけるようなことはほとんどないのではないだろうか。子供にとっては親との買い物はきっと楽しいだろうが、楽しそうな雰囲気はその親子の周囲だけで、他人にとっては別段どうということはないのが普通である。

 それでは諸外国ではどうだろうか。例えば、アメリカやイギリスのスーパーマーケットでは明らかに日本と違う印象を持つ。そこは子供用の施設ではないし、子連れではない大人も多数出入りしているのにもかかわらず、子連れの親にとっては何となく過ごしやすい雰囲気が漂っている。

 一見、日本と変わらないようにも思えるが、その雰囲気の違いがどこからくるのか、最近やっと分かった。その違いとは、日本の大人とアメリカやイギリスの大人の目線の違いである。アメリカやイギリスでは、大人が子供たちの目や顔をよく見る。そして、子供と目が合ったらほほ笑んでくれるのである。もちろん、それは女性に限られたことではなく、一人で来ている男性もよくほほ笑んでくれる。かわいい服だね、何歳なの? 名前は? と声を掛けてくれる男性も多い。

 一方で、日本の男性は子供たちの目や顔をあまり見ていないのではないだろうか。イタズラなど周りに迷惑をかけている場合を除き、親の顔を見ることはあっても、世の男性の目線が子供たちに向けられることはあまりないようである。

 健常な子供の場合、大人の視線や目線を感じ、その意味をある程度理解できるようになるのは生後九カ月ごろといわれている。発達心理学ではこの能力が将来、他人とのコミュニケーションの基礎になると考える。そして、それが親から愛情を引き出し、親子の安定した関係づくりに役立つ。例えば、親と目が合うと乳児はニコッとすることが多い。それを見た親も同様にほほ笑み返す。そうしたことがコミュニケーションの基礎となる。

 そして、成長するに従い、子供の目線は周囲の大人の目や顔へと向かっていく。つまり、人と目が合うことが乳幼児のコミュニケーションの練習になっているのである。そのほほ笑みは、やがて子供の社会性の発達にも役立っていく。

 さらに付け加えると、もし他人が自分の子供に対してほほ笑んでくれたら、親にとっても悪い気はしないであろう。悪いことをしたらしかる大人も必要だろうが、普段から子供に関心を持ち、目が合ったらほほ笑んでくれる大人がたくさんいてもよい。それは地域や社会が、あなたたちに関心を持っているよ、見守っているよ、というサインにもなる。そういう大人が増えることが、結果的に子育てしやすい雰囲気につながるかもしれない。

 そこで、世の男性諸氏に提唱したい。きょうから、子供を見かけたらニコッとしてみてはいかがだろうか。








(上毛新聞 2006年4月11日掲載)