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前橋国際大学名誉教授 石原 征明さん(高崎市筑縄町)

【略歴】国学院大大学院博士課程日本史学専攻。県地域文化研究協議会長、「21世紀のシルクカントリー群馬」推進委員。著書に「ぐんまの昭和史上・下」など多数。


いのちの電話

◎運営に理解と協力を

「○○線が、人身事故のため、運転を見合わせています」という放送が、テレビやラジオで時々流される。「また、自殺した人がでたのか」と暗い気持ちになる。

 一昨年は、日本全国で三万二千三百二十五人の人が自殺した。自殺未遂の人は、その二十倍もいると言われている。昨年、交通事故で亡くなった人は全国で六千八百七十一人。以前は一万人を超えていたのであるから、かなり減っている。

 これに比べて、自殺者のなんと多いことか。日本中で戦争が起き、毎日たくさんの人が殺されているようなものである。

 こうした状況に対処し、自殺を減らそうと懸命に相談に当たっているのが、「いのちの電話」である。本県でも「群馬いのちの電話」が平成四年につくられ、一年三百六十五日、一日も休まず電話を通して相談活動を続けている。

 昨年の「群馬いのちの電話」の相談件数は一万四千百五十七件。一昨年より約二千件減ったが、一本の通話時間は長くなった。それだけ悩みが深刻なのであろう。年代別では男女とも三十代から五十代の人が多く、五十代の人が以前に比べて増えている。社会の重要な担い手が苦しんでいるのである。

 「いのちの電話」の相談員はボランティアである。約二年間の研修と養成を終え、相談員として認定されたボランティア意識の高い人が、自殺防止に取り組み、悩みを聴き、助けを求めている人の相談に乗っている。しかも、だれが相談員であるか分からない仕組みになっている。また、相談員であることを自ら明かすことは決してない。

 しかし、「群馬いのちの電話」は相談員が足らない。一年中、一日二十四時間、休みなく相談を受けようとしても、相談員を配置することができず、二十四時間体制は本県では一カ月に一回しか実施できない。また、財政的にも困難な状況にあり、運営のすべての費用は寄付金に頼っている。理解ある人や企業からの寄付金がそれであり、なかには匿名で寄付してくれる人もいる。人の命をなんとか助けたいという心を持っている人がいるのは、大きな救いである。しかし、費用は常に不足していて、維持していくのが大変である。

 ほかに共同募金会の配分金や上毛新聞厚生福祉事業団の愛の募金、および行政や企業からの支援があるが、運営資金や人手が足りず、十分な活動がなかなかできない。

 国民の生命を守るのは国の重要な仕事である。社会契約説によれば、政府はそのためにつくられたという。ところが、毎年三万人以上の人が自ら命を絶っている。自殺はその人を失うだけでなく、家族やまわりの人たちに、精神的にも経済的にも大きな打撃を与える。国家・社会の損失でもある。

 「いのちの電話」は、いのちの尊さ、いのちの大切さを伝え、自殺を防ぐ上で大きな働きをしているのである。多くの人々の温かい理解と協力を得て、十分な活動が続けられるようにしていかねばならない。









(上毛新聞 2006年4月13日掲載)