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弁護士 小林 宣雄さん(前橋市荒牧町)

【略歴】沼田高、中央大法学部卒。54年司法試験合格。58年から地裁判事を務め、83年前橋地裁の裁判長就任。90年依願退官。群馬公証人会会長。02年から弁護士。


非行少年

◎発見者には通告義務

「いつの世にも悪は絶えない…」とは、池波正太郎原作のテレビ時代劇「鬼平犯科帳」(中村吉右衛門主演)の冒頭にも登場する名セリフ。まさにそのとおりで、時代、社会の変遷に呼応し、悪は手を替え品を替えて、あちこちの分野にはびこることをやめない。こうした悪に対しては、関係官公署を中心にして、それぞれの分野で時機に即した適切、有効な対応が望まれる。

 そんな中で特に苦になるのは、次期世代を担う少年(満二十歳未満の男女)の非行問題。大多数の少年たちは、慈愛に満ちた賢明な父母の下で健やかに育っている。が、その例外もないわけではなく、最近では、非行の低年齢化傾向も目立って増えているという。

 少年非行には、当の本人が社会的経験も浅く、精神的、情緒的にも未熟な段階にあるところから、その背景には種々複雑な家庭的、社会的原因が介在しがちだ。そのため、非行があったからといって、直ちに大人並みの処遇、処罰を考えることはもとより相当ではない。が、そうかといって、これを野放しにしておくわけにはいかない。

 子供のしたことでも悪はやはり悪。そのことを当の本人に思い知らせて教化改善を図ることが必要だ。非行少年に対して口頭の説諭だけでその実効が上がれば、それはそれで結構。だが、それが駄目なら、公的な保護専門機関の関与を期待するほかはない。そして、それが当の少年の健全育成にも有益であると思われる。悪の芽を摘むのは早ければ早いほど効果的だ。

 ところで、少年法によると、次に掲げる少年は家庭裁判所の審判に付されることになっている。

 まず「罪を犯した少年」(犯罪少年)、次に「十四歳に満たないで刑罰法に触れる行為をした少年」(触法少年)。そして、「虞犯(ぐはん)少年」と呼ばれる少年で、「保護者の正当な監督に服さない性癖があったり、正当な理由がなく家庭に寄り付かなかったり、犯罪性のある人もしくは不道徳な人と交際したり、またはいかがわしい場所に出入りなどをする少年で、その性格または環境に照らし、将来、罪を犯し、または刑罰法規に触れる行為をする恐れのある少年」がこれに当たる。

 こうした非行少年に対し、家庭裁判所はその健全な育成を期し、その性格の矯正および環境の調整に関する保護処分を行うとともに、少年およびその福祉を害する成人の刑事事件について、特別の措置を講じることを目的とするとされている。こうして、家庭裁判所は一般通常の裁判所と違って、特別の任務と権限を持っている裁判所といえる。が、ここで重要なことは、少年法によると、こうした問題少年を発見した者は誰でも家庭裁判所にこれを通告することが義務付けられているといことだ(少年法第六条)。

 この通告は、れっきとした国法上の義務。一般世人も、こうした連帯義務感に基づいて非行少年に対する早期保護と社会防衛の一挙両得を図るべきではなかろうか。









(上毛新聞 2006年4月14日掲載)