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国際協力出版会編集部 富田 映子さん(東京都大田区)

【略歴】前橋市出身。前橋女子高、津田塾大卒。マドリード大ディプロマコース修了。JICAの関連組織勤務を経て、97年版から「人間開発報告書」日本語版の翻訳・編集を担当。

人間開発低位国

◎想像を超えた貧しさ

 世界には多様な国があり、人種や政治体制の違いや国民所得などで、さまざまな分類ができます。国連開発計画(UNDP)の『人間開発報告書』では毎年、世界各国の状況について、「人間開発指数(HDI)」という独自の指数で測り、この指数をもとに世界の国を人間開発の上位国(日本を含む)、中位国、低位国の三つに区分しています。

 指数は経済的状況(一人当たり国内総生産)と健康(平均寿命)、知識(識字率と就学率)から計算され、最高値(一・〇〇)の半分に達しない国を「人間開発低位国」としています。二〇〇五年には三十一カ国が低位国でした。これらの国では、私たちの想像を超えた厳しい状況の中で多くの人々が生活しています。

 「低位国」では国民の多くが貧しく、慢性的な栄養不良や医療不備が原因で若くして死亡する人や、健康に恵まれない人が多数に上ります。多くの子供が家の手伝いや働きに出るため学校に満足に通えず、十分な読み書きができません。そうした貧困世帯の子供は、成人しても健康に不安を抱え、教育を受けていないため、まともな職につけないことが多いのです。栄養失調に苦しみ、体が弱く、就学できず、職につけない、という悪循環から彼らが抜け出すのは非常に困難です。

 アフリカのサハラ砂漠の南に位置する国々では、特にそうした厳しい状況に苦しんでいます。マリでは国民の70%以上が、一日一ドル未満のわずかな生活費で暮らしています。ニジェールでは読み書きのできる成人が15%に達しません。スワジランドでは、国民の75%近くが四十歳まで生きられない恐れがあります。

 このような状況は、私たちの日常とあまりにもかけ離れているため、よそごとに思えるかもしれません。しかし、現代社会では、さまざまな国から物品や仕事を求める人々が豊かな国に流れ込んでいます。地球の反対側の出来事が思いがけないところで、私たちの生活とつながっているのです。

 昨年末のフランスでの移民の暴動は、安い外国人の労働力に頼る先進国が直面している異文化との共存の難しさを見せつけました。また、地球全体の環境悪化への懸念が高まる中で、困窮した人々が薪まきにするために違法な伐採をすることが、森林の消失を加速する要因の一つになっているとさえいわれています。

 それだけでなく、学校に行けない子供たちが薄暗い工場でサッカーボールを縫っていることを知ったら、私たちは屈託なくゲームを楽しめるでしょうか。

 今日、私たちは他国の品物やサービスに大きく依存した生活を送っていますが、それは不均衡な世界の上に成り立っています。貧富の差が引き起こす最近の暴力的な対立を見れば、私たちが非常に危うい世界に生きていることが分かります。日常消費しているさまざまな物の背後にある途上国の人々の生活に目を向けることを第一歩に、世界の貧困を自らの問題として真剣に取り組むことが必要だと強く感じます。













(上毛新聞 2006年4月23日掲載)