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元小学校長 松沢 清さん(千代田町萱野)

【略歴】豊島師範学校(現・東京学芸大学)卒。館林第二小校長などを歴任。県教委指導主事、県特別学級設置校長協会長、館林教育相談専門委員などを務めた。元みよし幼稚園長。


我慢をはぐくむ(中)

◎子供と本音で話そう

 親であって、わが子を愛していないものはない。子供を愛しながら立派な人間に育て上げた方は多い。半面、子供を愛して育てながらも思いもよらぬ人間になって、苦しんでいる方も多い。

 子供が問題行動をとるようになると、母親の育て方が悪かったとか、父親がしっかりしていないとか非難されることがある。親としても、自分の子育てが失敗したのだと自分を責める。

 子供に対する不信も強くなり、干渉することも多くなる。子供も親に不信感を抱き、反抗する。親と子の間に重い空気が流れる。親は思いめぐって右往左往し、非常に不安定な気分に陥りやすい。

 私は親と子のかかわり合い方は、子供の育つ力を見極め、我慢するということを、はぐくんでいくことだと考えている。今回は、口答えの多くなる八、九歳ごろの子供とのかかわり合い方について具体的に述べる。

 この年代になると、親や教師からしかられるよりも仲間外れにされることの方がつらい。自己中心的な遊びから、統制の取れたルールの遊びへと発展し、自分勝手な行動、無責任、約束を守らない、忍耐力がないなどの態度をとると、仲間から相手にされなくなることを知っている。どのようなときに、どのような行動をとるべきか判断する力もつき、遊びから学ぶことは多い。ただ、最近は子供の数も少なく、ゲーム遊びが多くなり、子供が野外で群れをなして遊ぶ姿はほとんど見かけなくなった。

 ルールを理解するようになる、この年代の大きな特徴は「筋道を通して話せば理解することができる」ということである。

 子供が反抗した場合、一方的に親風を吹かせて押さえつけるのではなく、じっくりと話し合うことである。子供の考えていることをよく聞き、親の考えをはっきり言って話し合いを深めるのである。

 自己主張する力を育てるとともに、人の意見を聞くことを身につけることにより、自分の意見が通らないからといって短気な行動を取ることの間違いを理解させる。

 子供の考え方を親がよく聞き、親も自分の考え方を述べるということは、子供にすれば、親が自分を一人の人間として認めてくれたと実感でき、大きな喜びとなる。

 私は四年生のころ、田植えが終わったときに、父親が「清は大人になったら何になりたいか」と聞いてくれた。私は「農家の長男だが、許されるなら先生になりたい」と答えた。「それなら師範学校へ行かなければならない。勉強しなければ合格しないよ」。父の思いもかけない言葉に私はびっくりするとともに、大きな喜びを感じたことが強く印象に残っている。

 この年代は社会人として自立するために大きく飛躍する時期である。そのためには親と子が本音で話し合うことが重要である。






(上毛新聞 2006年6月8日掲載)