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桐生地域情報ネットワーク理事長 塩崎 泰雄さん(桐生市宮前町)

【略歴】東京歯科大卒。歯科医師。地域情報ネットの構築に携わり、母体のNPO法人が「桐生お召しと職人の系譜」出版。ファッションタウン桐生推進協議会所属。


桐生の民話

◎善意でFM局の番組に

 子供のころ、寝しなに聞いた昔話は、ふと思い出す懐かしさがある。梅田村(現在の桐生市)の小学校教師だった祖母は、ちょっと怖いが、ユーモラスな話を幾つも持っていて、ぐずる私にゆっくりと優しく、情感を込めて話してくれた。五十歳を超えた今日でも、物語は耳の奥に残っている。

 その祖母の教え子でもある郷土史研究家、清水義男先生は、長年にわたり桐生の民話を調査発掘し、二百以上の民話を文章に残してきた。週末を利用して、土地の古老たちから聞いた話を一つ一つ物語に起こし、歴史資料と付き合わせながら創作した物語は、まさに珠玉の作品である。その物語は平成十一年から新聞に掲載され、十三巻目の『ふるさと桐生の民話』が本となり、発刊されたのは昨年のことである。

 既に、読み聞かせの会など、地域で活用されるこの『ふるさと桐生の民話』を今回、FM桐生でも番組にすべく行動を開始した。桐生の演劇祭で活躍する岡野芳氏を中心に読み手をお願いし、音楽好きの同級生、関塚敏司氏に録音の担当を、ディレクターを兼ねて読み原稿や現地調査など必要な資料づくりを有鄰館友の会の西坂一夫氏にお願いした。

 彼らは、開局準備の苦しい台所を察して、ボランティアで快く引き受けてくれた。この企画を持ち、清水先生のお宅を訪問すると、笑いながら全話の利用をご快諾いただき、番組づくりが現実のものとなった。そんな貴重な物語は、写真や文章もつけてインターネット上に公開し、将来は「NHKアーカイブス」ならぬ「桐生アーカイブス」も目指している。

 こうして、多くの方々の善意を力に、そろりそろりとコンテンツづくりが始まっている。放送番組づくりは初めての経験である。番組の構成や配役など暗中模索の作業が続く。音楽の著作権、物語の選定、効果音、何を取っても初めてのことばかり。その上、製作には必要経費がかかる。一番の悩みが製作費。勢い、スポンサーが必要だと気づいた。本企画に賛同くださる方々に、一話ごとの提供スポンサーを募るという手段も考え始めている。地域FM局の現状は厳しく、運営は悲観的ともいえる予算の上に成り立っているのが現実だ。

 わずか十五分だが、FM桐生の最初の番組が少しばかり見え始めた。これから、気が遠くなるほどの番組枠を一つ一つ埋めていく必要がある。おかげさまで人と物はどうにかそろい始めたが、最後のお金がどうしても足りない。二百三話を毎週二話放送して約二年、もしも一話に一万円の広告スポンサーが付けば大金で、これらが大切な運営財源となる。そんな収益案を真剣に検討している。

 さらに言えば、放送局の電波割り当ても心配の種だ。三月に申請したが、担当省庁からの連絡はまだない。お役所仕事とはいえ、何と慎重な仕事ぶりだろう。関係諸氏のやきもきをよそに、正確無比な調査と検討が続いているらしい。FM桐生局開局に向けて、楽しいながら“苦難の道”はまだまだ続く。






(上毛新聞 2006年6月16日掲載)