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前橋カトリック教会主任司祭 岡 宏さん(前橋市大手町)

【略歴】韓国ソウル生まれ。福岡サン・スルピス大神学院卒。89年から現職。著書に「泥沼の中にある福音」「遮られた非常口―あるつっぱりたちの記録」などがある。


どう諭すか生きる価値

◎冒険と無謀混同の若者

 軍国時代に「お国のために役立つ者になれ、命は鴻毛(こうもう)より軽し」と学校で聞かされて育った世代は、あまりにも自由になった現代の若者のおおらかな生き方に、戸惑いとうらやましさを感じる。自由に国境を越え、わずかな知識を頼りに、予備知識も持ち合わせず押しかける。

 「インターネットで日本を知りました。私の国は貧しく、大学を出てもろくな仕事もなく、就職しても月に日本円で一万円ぐらいの月給です。日本の大学出の初任給は私の国、ルーマニアの二十倍です。私は日本で稼ぎたいのです。そして、アメリカで映写関係の勉強をしたいのです」

 知人一人もなく、インターネットの知識を頼りに、童顔の二十歳の青年は、前橋にやって来た。インターネットで一番安いホテルは、前橋か北海道の北の端かであった。ホテルもインターネット通りでなく、適当な仕事もなく、サウナ住まいを始める結果になった。見兼ねた一人の婦人が、教会なら何とかしてくれるのではないかと、この青年を連れてきた。英語、仏語、タップダンスができるが、観光ビザのため誰も雇うことをちゅうちょする。

 にわかに国際色豊かになったわが住まいでは、片言の英語、ジェスチャー・ランゲージで珍喜劇が繰り広げられる。言葉による意思不疎通、風俗、習慣、文化の違いによる摩擦は、東欧の青年がアジア人に優越感を持ち過ぎるという不平に変わる。

 世界が戦争の渦に浸っていた時代、ただひたすら祖国のために命をささげることが、青春の最大の名誉のように教えられた古い世代は、予備知識なしにインターネットの情報だけを頼りに日本にやって来ることを無謀としか言いようがない。

 世界大戦が地上から消えて六十余年。長い間、戦争体験の中で道徳や忍耐心、克己心を培った人々は、戦争のない平和な時代に、こういうものをどのように培ってよいか、体験からは分からなかった。

 「いとこから、日本で稼いだら返すと言って、三十万円借金してきました。このまま国に帰れば、飲まず食わずで三年間、働かねばなりません」と涙を流す青年は、若い者は頼りにならないと化石のように考えている年寄りにこうべを垂れる。冒険と無謀を混同している青年に、何と諭せばよいのか。

 悪の餌食にならないで、善意の人の導きで教会の保護の中に包まれたことを、単に神の導きと感謝してよいのか。平和な時代に、ロマンチックなことでなく、人生の本当の厳しさと生きる価値とをどのように教えればよいのか、私は戸惑う。

 甘えとわがままの共存を、識者は「ピーターパン症候群」とか「思春期挫折症候群」と言うが…。






(上毛新聞 2006年6月24日掲載)