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臨床心理士 服部 哲久さん(太田市高林東町)

【略歴】埼玉大学教育学研究科修了。現在は阿部真里子臨床心理オフィス勤務、埼玉県スクールカウンセラー、日本大学学生相談センターカウンセラーを務める。


子供の遊び体験

◎人格形成に大きな影響

 成育体験は子供の人格形成に大きな影響を与えていて、心理的成長につながると同時に、心の問題の一因にもなると考えています。今回は成育体験のうち「遊び体験」に焦点を当ててみたいと思います。特に幼児期・児童期の遊び体験は人格形成に大きな影響を与えていると考えます。

 私はカウンセリングで成育体験を聞く際、遊び体験も詳しく聞くように心掛けています。相手によって言い方は変わりますが、「子供のころ、どんな遊びをしていましたか?」といった質問をします。すると、例えば「小学校のころは近所の公園で鬼ごっこをしていた」と遊びに関する話が出てきます。そうしたら「鬼ごっこは、どんなふうに遊んでいましたか?」などと質問し、その遊びをどのようにやっていたかをさらに具体的に聞いていきます。

 さらに「やっていてどうでした?」と聞き、その遊びがその人にとってどのような体験だったかを聞きます。すると「楽しかった」と返答する人が多いのですが、中には「無理して友達に付き合っていて面白くなかった」と話される方もいます。

 このように遊び体験を詳しく聞くことで、どのようなことが分かってくるのでしょうか。一つは「他者(友達や家族)とのコミュニケーション体験」が分かってきます。例えば、集団で遊ぶことが多かったのか、一人で遊ぶことが多かったのかとか、友達と楽しく遊ぶ体験を豊富に積んできたか、そうでなかったかとか、けんかなどの対人関係の問題を解決する体験をどのくらい積んできたか、といったことなどが見えてきます。

 また、その人の「興味、関心」が分かってきます。例えば、クワガタなどのリアルな対象に興味や関心を持ったのか、それともテレビやゲームなどのバーチャルな対象に興味や関心を持ったのか、などが分かってきます。さらに「その人が遊びに対してどのように取り組んできたか」が見えてきます。例えば、生き生きと夢中になって取り組んでいたかとか、楽しく遊ぶためにさまざまな工夫をしていたか、といったことが分かってきます。

 これらの視点は、子供の心理的成長や心の問題を理解する上でとても大事なことで、遊びはコミュニケーション力を伸ばしたり、困難を乗り越えていく力を育てる体験になると考えています。

 子供のことで悩む保護者が相談に訪れた場合は、お子さんがどんな遊びをやってきたか、やっているかをお聞きします。その際「どんな様子で遊んでいますか?」などと子供の表情や様子に焦点を当て、遊びに対する取り組み方を詳しく聞きます。このようなカウンセラーの質問に対し、最初は的確に答えられない親御さんもいますが、たびたび聞かれているうちに「子供を見る際、どのようなところに注目するといいか」という子供を観察するポイントが分かってきます。

 子供の遊び体験に関心を持つことは、子供の心を理解することにつながる、とても大事な発想だと考えています。






(上毛新聞 2006年6月26日掲載)