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明和町文化協会会長  山平 薫さん(明和町新里)

【略歴】国学院大文学部卒。高崎経済大、前橋国際大の非常勤講師。源氏物語を読む「蘇芳(すおう)の会」主宰。


江戸しぐさ

◎社会人の作法を教える

 仕事の関係で東京・日本橋小伝馬町まで、私鉄と地下鉄を利用して通っている。

 首都圏の交通機関は、通勤時間帯になると電車も、駅も混雑し、今にもあふれんばかりになる。ターミナル駅などでは、乗り換えの乗客が階段といわずエスカレーターまで、駆け足で走り抜けていく、実にすさまじい限りである。一歩間違えば、事故につながりかねない。一度押されて、あわや転倒かと思われたことがあった。中年の方に抱き留められて、事なきを得たのである。押した人はどこの誰か、分からずじまいであった。

 他人に迷惑をかけても、知らぬふりをしている者、自分が被ると腹を立て、いきりたって相手をなじる者、他人のことなど無視して、行動を起こす者もいる。

 通勤していると、さまざまな人たちに出会えるのである。驚くこともあれば、感心させられることもある。

 このごろの、公共の乗り物には、優先席がある。この席がいかなる目的であるのか、知ってか知らずか、悠然と占有している若い女性を多く見かける。空いているときはよいが、お年寄りや体の不自由な方を見ても、寝たふりをしているように見受けられる。

 「お年寄りや体の不自由な方を見かけたら、席をお譲りください」「携帯電話の使用はご遠慮ください」などと、車内放送されているにもかかわらず、聞いているのか、聞こえないのか、あまり反応がない。

 高齢化が進むなか、どの時間帯をみても、必ず二、三人の年寄りが目に留まる。つえをつき足腰が不自由な人、幼児の手を引き難儀している人もおられる。この人たちのために「優先席」があるものだと理解して、代わってあげるくらいの雅量があってしかるべきではないだろうか。

 昔の日本人は礼節を守り、思いやりのある親切な国民として、他国からも尊敬されていた。今、外国の人が見たら、あきれるだろう。

 高度経済成長時代のころの子供たちは、親から人間教育らしきものはほとんど教えてもらえず、勉強のみに精を出し、偏差値だけで質を評価されて新人類と呼ばれた。

 この人たちが家庭を持ち、生まれた子供に教育の仕方が分からないまま現在に至り、親も子もぎくしゃくしながら、なすすべもなく悩んでいるのである。

 地下鉄駅のホームの壁に、公共広告機構のポスターが張られているのが目に留まった。「あれ、何だろう!」と立ち止まって見ると、昔の風俗や人物像をアレンジしたイラストで「江戸しぐさ」というのがあった。

 今の日本人に欠除している「行為」「礼節」「思いやり」など簡潔な説明で、社会人に必要な作法が分かりやすく描かれている。なかなかもって、ためになる広告である。何らかの方法で、広く世の中の人たちに知らしめれば、世直しの役に立つのではなかろうかと思った。






(上毛新聞 2006年7月2日掲載)