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元群馬町教育長 山本 幸雄さん(高崎市金古町)

【略歴】信州大卒。60年、群馬に移り旧小串中(嬬恋)で教諭生活をスタート、堤ケ岡小などで教頭に。群馬中央中の校長を退職後、群馬町教育長を2期務めた。


外来語を知る

◎未知な分野へ心広げる

 最近の新聞、雑誌、書物の記事、テレビやラジオ放送の対談でも、外来語やその略語の使用が多くなってきている。放送番組表のカタカナ文字の多さにも圧倒される。

 政治、経済、社会、文化、スポーツ、科学欄など、どの分野にもカタカナで書かれた外来語やその略語がよく見られ、その中には言葉の意味が未消化のまま、見過ごしてしまうものもある。だが、過日のテレビ対談では、フード・マイレージ(食料到達距離)という言葉と、その考え方が紹介され、国別の食料自給率やエネルギー消費量を考える上での新鮮な発想に感心した。

 いま、パソコンを自由に駆使できる中高年者の中にも、当初は入門書などを買い求め、カタカナで書かれたパソコン特有の機能、言葉や記号の意味や概念が理解できずに操作に戸惑い、画面が動かなくなってしまったなどの苦い経験をされた人も多いのではないかと思う。情報化や国際化が進み、日進月歩の技術革新や変動し続ける社会の影響を受けながら生活している私たちは、既存の日本語だけでものを考え、表現し、処理しようとしても限界がある。

 時代の変化に対応した言葉が生まれ、国を越えて言葉や考え方が移出入されていくことは、自然の成り行きでもあると思う。これは、どこの国でも共通していえることと思う。

 外来語の中には完全に日本語として同化し、不自然さを感じないものもある。また外来語を表音文字のカタカナに置き換えることで、日本人は外国の文化や技術をすばやく吸収し、普及できた面もあることを見落とすことはできないと思う。しかし、なかには外来語でなく、日本語そのものの方がより明確な表現として、より適切ではないかと思われるものもある。使われる特別の理由もあると思われるが、経営者らが好んで使用するコンプライアンス(法令順守)などもその一例である。

 このようにカタカナで表わされた外来語やその略語の数が多くなると、新しい言葉の意味を正しく知り、理解するための努力を欠かすことができない状況が生じてくる。文章や会話の中には、分からない言葉が一つでもあると、全体の意味が分からなくなる場合もあるからである。また、意味が分からないために読もうとする意欲や興味をなくし、読むことを避け、あきらめることにもなりかねない。このことは、年齢に関係なく起こりうることでもあると思う。

 読むことをあきらめたならば、毎日が惰性に流された生活となり、新聞や雑誌、書物を見ても、なんの感動も味わうことなく、味気ない生き方に変わってしまう気がする。読むことのあきらめは思考の停止をも意味する。この言葉にはこんな意味があり、こんな考え方が含まれているのかと知るだけで、新聞や雑誌、書物を見る楽しみが増し、気持ちが若返ったようになるだろう。

 社会とのかかわりを保ち、未知な分野へ心を広げるために、自らも言葉の意味を調べ、知る努力を重ねていくことがますます大切になってくると思われる。






(上毛新聞 2006年7月7日掲載)