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国際協力出版会編集部 富田 映子さん(東京都大田区)

【略歴】前橋市出身。前橋女子高、津田塾大卒。マドリード大ディプロマコース修了。JICAの関連組織勤務を経て、97年版から「人間開発報告書」日本語版の翻訳・編集を担当。

人権と民主主義

◎政治に興味持ち参加を

 国連開発計画(UNDP)の『人間開発報告書』は、各国の豊かさを測る独自の指数、人間開発指数(HDI)をもとに世界の開発状況を毎年、報告しています。人間の生活の豊かさを示すものには、数値として測ることのできる所得、教育程度、健康などのほかに、数値でとらえにくいものもあります。例えば、自由度や人間らしく生きる権利、貧困者に優しい政治などを評価するのは難しいでしょう。

 報告書は、測定の難しい側面についても指数化を試み、一九九三年には「人間自由度指数」を発表したこともあります。

 その後、人間の豊かさのうち、数値でとらえにくい面にあらためて光を当て、豊かさとのかかわりを考えようとしたのが、二〇〇〇年の『人権と人間開発』と〇二年の『ガバナンスと人間開発』でした。〇〇年の報告書では、人間の自由と尊厳を守ることが、また、〇二年の報告書では、経済成長と同じくらい、民主的な良い政治が「人間開発」には欠かせないと主張しています。

 ところで、ある国の「人間開発指数が低い」場合、それはその国の個人の能力が他の国の人より低い、ということではありません。指数が低いのは、国民の一人一人が持っている潜在能力を発揮できるような仕組みを国が提供していない可能性がある、ということを意味します。

 教育や保健医療が国民に十分行き届いていない、公共のサービスを最も必要としている人々が軽視されている、経済的に不自由はないが言論の自由がない、環境汚染がひどい、治安が悪く子供を安心して育てられない―といった状況は、人々が真に豊かな生活を送る上での障害となりますが、その場合、政策にも何らかの問題があるのではないでしょうか。その意味で「人間開発度が低い」と言われたら、政府は自らの政策を見直すべきかもしれません。

 しかし一方で、民主制の国なのに議会が十分機能しなかったり、政府が人々の福祉を軽視した政策をとっていたりするとしたら、そのような政府を選び、支持している国民にも責任はあるはずです。

 人権や民主主義というと、難しくて肩が凝りそうですが、これらは良い政府を守り、育てる上で欠かすことのできないものです。私たちが本当に豊かな生活を望むなら、つまり、自らが持つ能力を十分発展させることのできる社会や人間の尊厳を大切にする社会を望むなら、良い政治は欠かせません。

 長年ベストテン内であった日本の人間開発指数は、〇五年に初めて十位以下になりました。また、女性の社会的・経済的進出度を測るジェンダーエンパワーメント指数(GEM)は、一九九五年の発表以来下がり続け、〇五年は四十三位です。統計の取り方もあるでしょうが、これらの動向は日本の政策の在り方と同時に、私たちの無為と無関心にも警鐘を鳴らしているとは考えられないでしょうか。民主主義を深化させ、さまざまな権利を守るためには、私たち自身が政治や政策に興味を持ち、参加することが重要なのだと思います。






(上毛新聞 2006年7月28日掲載)