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県立女子大学長 富岡 賢治さん(東京都中野区)

【略歴】高崎市出身。東大卒。文部省初等中等教育局審議官、生涯学習局長、国立教育研究所長を歴任。03年1月から現職。青少年野外教育財団会長なども務める。


群馬と郷土料理

◎高級うどん店があれば

 私たちの県立女子大学では毎年、在日の各国大使を十人程度、順次お招きして「平和」をテーマに授業を行っている。県民にも公開しているので大教室がいっぱいになり、なかなか評判もよい。全国に大学は七百あるが、これだけの人数の各国大使が一つの大学に来て授業をする例はほかにはない。ある東大教授が東大でも行いたいので、ノウハウをと言ってきたので教えてあげたが、まだ実現していない。

 授業は午後からなので、大使にとっては一日仕事になる。私も若いころ、在仏の日本大使館で仕事をした経験があるのでよく分かるが、大使に一日地方に出張してもらうのは結構大変で、何か重要な催しでもないと出掛けていただくことはめったにない。ここ二年間でエジプト、トルコ、アフガニスタンなど十七カ国の大使が喜んでわが大学に来ていただいており、ありがたいことである。女子学生たちも活発に質問したりするので、大使たちも日本の若い人と楽しく話ができたと言って満足して帰っていただいている。

 ところが、いつも頭を悩ませる問題がある。お昼ご飯をどこで、何を食べていただくか、ということである。駅弁でもというわけにはいくまい。私の個人的趣味では新幹線の中でだるま弁当もいいのだが。そこで、せっかく本県に来ていただいたのだから、群馬らしいものをと考えるが、案外難しい。たかが昼飯、遇する気持ちさえあればいいという方もいるかもしれないが、読者の方ならどこで何を食べていただこう、とお考えになるだろうか。

 群馬はネギやレタスなどの野菜は本当においしいが、野菜サラダをメーンにというわけにはいかない。上州牛もうまいので、すき焼きかシャブシャブなら両方満たしていいではないかなど種々考えて、いろいろなお店を案内して喜んではいただいた。しかし、やはり群馬なら、うどんを食べていただこうとした。

 そこで、はたと困ってしまったのだ。外国の要人をうどんで接遇する店が見つからない。高級な料亭で会席料理の後、うどんを出すという案もあろうが、それは無理だ。

 東京では何とざるそば一枚二千円で名を売っている店が千代田区にあって、結構はやっている。しかし、群馬には高級なうどん店は見当たらない。うどんとはそういう食べ物なのだともいえるし、食文化に詳しい人の話では、特に群馬ではうどんは自分の家で作って食べるもので、お金を出して食べるものではないという。そのため県内にはうどん店が少ないのだという。

 うどんに限らず、地域が誇る料理がどんどん工夫開発され、よい店がたくさんでき、その名が日本中に広がっていくのはいい。そういう観点から見ると、全国に知られた郷土料理と店が群馬には少ないように思える。高価であればいいというわけではもちろんないが、ざるうどん一枚二千円の超有名なうどん店などが本県にあったら面白い。観光客も多少増えるかもしれない。






(上毛新聞 2006年8月3日掲載)