視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
前橋カトリック教会主任司祭 岡 宏さん(前橋市大手町)

【略歴】韓国ソウル生まれ。福岡サン・スルピス大神学院卒。89年から現職。著書に「泥沼の中にある福音」「遮られた非常口―あるつっぱりたちの記録」などがある。


虐げられた人の立場

◎次世代に何を伝えるか

 「日の丸、かわいそうです」
 
「え!」

 「私たちが指摘したいのは、日帝(日本帝国主義)がよその国を占領したり、植民地政策を始める時、日の丸を振りかざし、神社を建て、大きな鳥居を築いたことです。ここ韓国でも、日帝時代、ソウル駅に降り立つと、左手に朝鮮総督府の建物、右手の南山のてっぺんに朝鮮神宮があり、大鳥居が天高くそびえ立っていました。私たちにとって、鳥居も同じく征服と支配のシンボルでした。それなのに、あなた方日本人は日の丸だけを悪者にしています」

 「でも」

 「言い訳をしないでください。台湾でも、同じことをしています。第二次大戦(大東亜戦争)のとき、日本軍がシンガポールを占領し、そこを昭南島と名付け、すぐ昭南神社を建て、大鳥居を築いたではありませんか。日の丸だけに責任を負わせないで、鳥居にも責任の分かち合いをさせてください。毎週、神社参拝を強要し、礼拝させられ、天皇陛下への忠誠を誓わされました。ある者は、天皇陛下の赤子となることが名誉と言われ、徴兵され戦死した者もあります。でも、解放後(敗戦後)は韓国人同胞には裏切り者のように言われるのです。その人々の名誉を天皇は保障もしてくれないのです」

 私は生まれた地で、かつては内鮮(内地人=日本人、朝鮮人)一体と言い、区別されない同国人として生活したのに、弱い人、虐げられた人の立場に立っていなかったことを、ひしひしと感じる。

 修身(道徳)で、日本の偉人について授業があった。勤勉家の二宮尊徳、部下思いの広瀬中佐、逆境に立ち向かった野口英世を偉人だと教えられた。

 しかし、お手本は日本人だけで、韓国人に偉人がいることは教えられなかった。彼らの民族の誇りを考えなかった。

 美しい花を描きなさいと言われた韓国人の女の子は、きれいなアサガオを描いた。日本人の先生は桜の花を描かなかったことに怒りを爆発させた。朝、鮮やかな紺ぺきの青空に映えるアサガオは朝鮮の人の誇りである。

 いつの間にか、選民思想の中で日本民族が最優秀の国民のように勘違いをし、植民地の人々を一段下に見る風潮が表れた。それは、植民地の人々に神社参拝を強要したことが日本人に自信を持たせた。

 私たちの周りには、今、かつての植民地であった韓国の人、台湾の人、進出の名の下に占領した中国の人や、貧しくてラテンアメリカに移民・棄民した日本人の子孫にあたる日系の人が多い。日本文化の誇りを持ち、かつ地球人として、私たちは次の世代に何を伝えるべきだろうか。






(上毛新聞 2006年8月10日掲載)