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東京農工大学名誉教授 鹿野 快男さん(高崎市城山町)

【略歴】東京都出身。明治大大学院博士課程修了。主な専門は磁気回路、リニアモーターなど電磁機器の福祉機器への応用研究。元国立公害研究所客員研究員。

森林と緑地

◎大切にして有効利用を

 前橋市在住の知人が「東京は緑が多いですね」と評価した。私が都内から本県に移り住んだのを知っていての言葉である。しかし、この言葉は私にとっては意外であった。本来、コンクリートジャングルの東京より、ずっと群馬の方が森林・緑地が多いはずである。

 都は無機的なコンクリートのビルばかりにならないように、努力している。都市公園法では「都市公園の住民一人当たりの敷地面積の標準を十平方メートル以上」としている。その数には及ばないが、残された緑を大事にして都市公園緑地を造りだし、ビルとビルの間には環境施設帯を造っている。最近ではヒートアイランド現象を和らげるために、ビルの屋上の緑化に力を入れている。こういう緑化の努力が高層ビルの多い東京の緑の方が多く見え、知人の発言になったと思われる。

 一方、本県の面積六千三百六十三平方キロに対し、森林面積は四千二百三十七平方キロと非常に広い。この森林は利根川の上流域にあることもあって、水源かん養保安林として国と県が管理している。貯水能力は十億トンを超え、主要なダムの貯水能力を上回っている。県森林組合連合会や上州森人の会など民間・ボランティア団体があり、森林の保全・育成に努力している。

 このように本県は都市部の緑化というより森林の保全・育成の方に努力が多く払われているようだ。一般県民は近くの山間部に緑が多く見られるので、森林も市街地の緑も、その重要さをあまり認識していないのではないだろうか。

 先日、中国の森林資源が枯渇し始め、輸入割りばしの価格が上がるというニュースがあった。割りばしはもともと日本人の発明で、酒だるを作る木材の廃材から作ったのが始まりという。丸太から四角い柱状に材木を切り出した後の三日月状の廃材部分の一部を、割りばしに加工している。ただ、割りばしに使われているのは、日本の材木生産高の0・5%に満たない。割りばしの輸入をやめて、中国の山をはげ山にすることなく、もっと日本の森林を育て、材木を有効利用したい。

 ここ数年、世界各地で集中豪雨や異常乾燥の災害が発生している。日本でも局所的に短時間に何百ミリという雨が降り、洪水、がけ崩れ、土石流災害を起こしている。地球温暖化の影響で、温帯に属する日本が亜熱帯化しているために起こる異常気象ではないだろうかと心配になる。そのためにも本県の森林を木材資源として有効利用しつつ、水源・かん養保安林として、二酸化炭素の排出をできるだけ抑制するよう保全・育成したいものだ。

 水は、関東平野の人口を支えるためにも必要である。県民だけでなく、上下流に住む人々の連携も進め、皆で群馬の森林を大切にしてもらいたい。この緑豊かな日本の国土を、まず群馬の森林を林業が成り立つように有効利用しつつ、土石流災害が起きないようにもっと大切にし、併せて市街地の緑化を推進させたい。






(上毛新聞 2006年8月16日掲載)