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オーエックス関東代表取締役  生方 潤一さん(伊勢崎市東町)

【略歴】足尾町出身。元国際A級ライダー。92年に脊髄(せきずい)損傷後、伊勢崎市で車いす販売とレース参加支援の会社を創立。ぐんま障害者スポーツ・サポート“41”理事。

高齢者と車いす

◎軽量なモジュラー型を

 車いすに座っている人形やおもちゃを見たことがありますか? 欧米ではおもちゃ店で販売されています。車いすで着飾って外出している老夫婦を映画などでよく見かけませんか? 欧米では障害者や高齢者に対して「きちんと座ること」が大切にされ、それが自立につながっています。だからこそ、遊び道具や映画などに車いすが自然に取り入れられているように思います。日本はどうでしょうか?

 僕のような障害者は自立のためにいろいろな方から応援していただけますが、高齢者に対しては快い応援ばかりではないようです。仕事を通じて、ときどき戸惑うことがあります。それは「高齢者に動きやすい車いすを預けていると、勝手に動いて困ってしまう。だから、動きにくい車いすを使用している」というような言葉を聞くときです。身体状況により異なりますが、「車いすとは、何なのですか?」と問いたいです。人を運ぶための台車ですか? それとも利用者自身が動くためのものですか、と。

 僕たちがいつも目指しているものは、障害のある方や高齢者が自立できるよう、お手伝いすることです。以前、この欄(六月二十五日付)で車いすの種類や制度について記述したことがあります。「レディーメード型」「オーダーメード型」「モジュラー型」。最近は、モジュラー型にどのメーカーも力を入れ、身体障害者福祉法でも認められるこの型が主流をなしています。誰にでも適合するわけではありませんが、僕としては高齢者こそモジュラー型だと思っています。

 なぜ、この型にこだわるのか、各メーカーが力を注ぐのか。一つはオプションとして複数の部品があり、調節ができ、体の変化に合わせて車いすを変化させることができるからです。これにより、一台の車いすに愛着を持って長期間使用することができます。また、高齢者は車いすの耐久限度に達する前に身体状況が変化することが多く、一台一サイズしかない車いすだと、自分を合わせなければいけません。本来、日常生活を維持・改善するために使用されているものが、利用者に悪影響を及ぼす場合もあります。

 もう一つはデザインも選べ、かつ軽量だからではないかと思います。利用者や介助者にとって、デザインが楽しめ、軽量ということは共に外出し、楽しむ機会につながると考えられます。車いすは道具ではありません。外出の機会が増えれば、ユニバーサルデザインが進み、さらに「心のバリアー」も和らぎ、高齢者・身障者・健常者などと分けることなく自然に共生できる環境ができると感じます。

 僕は車いすを手放すことができません。でもまだ、高齢者といわれる年齢ではありません。介助なしに、なるべく自分自身で何でもやりたいと思っています。これから、僕自身が年を重ね高齢になったとき、「一人で動いては困るから、なるべく動きにくい車いす」を渡されたら、寂しさを感じないではいられません。事情と環境はあると思いますが、車いす利用者や介助者にとって、互いに楽しく過ごせ、自立できる手助けをしていきたい、と思っています。






(上毛新聞 2006年8月20日掲載)