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三宿病院薬局長 鎌田 泉さん(東京都大田区)

【略歴】桐生市出身。桐生女子高、東京理科大薬学部卒業後、薬剤師国家試験合格。国家公務員共済組合連合会虎の門病院勤務を経て、03年から三宿病院薬局長。

医療現場の接遇

◎丁寧で誠意ある対応を

 私の勤務する病院の薬局では受付に薬剤師一人を配置しています。外来処方せんの確認のためですが、患者さんの質問や相談にも対応します。もちろん、薬に関することが多いですが、受診の相談や院内の案内まで種々雑多な問いかけが寄せられます。

 この窓口で患者さんとのトラブルが起こることが、まれにあります。薬の名前、処方日数といったささいな事柄をきっかけに、声を荒らげる緊迫した事態に至ることもあるのです。薬剤師の態度が悪いという投書をちょうだいすることもあります。

 こうした出来事は、(1)「薬剤の処方日数に制限がある」ということなどに患者さんの理解が得られない(2)患者さんの伝えたいことを聞き取れない(3)基本的な接遇態度に配慮が欠ける―等に分けられます。これらの原因として、(1)説明する側の知識があいまいで説得力に欠ける(2)相手から判断材料を引き出すコミュニケーション力が足りない(3)病院を訪れる人のほとんどは、何か心配事を抱える患者さんです。平常心から懸け離れた心理状況であり得ることを忘れて対応している―といったことが考えられるでしょう。

 意外に思われるかもしれませんが、業種からいうと病院はサービス業に分類されます。「もてなし、歓待」を意味するホスピタリティーと、英語のホスピタル(病院)という言葉の語源は共通しています。

 一般的なサービス業であれば受け手がサービスの量や質を選べます。対価を支払えば、高級な特別サービスも受けられます。それでは、医療の現場で求められるサービス(接遇)は、どうあるべきでしょうか。高級ホテル並みの対応であっても、医療技術に未熟な点があることは許されません。

 医療従事者は患者さんの疾病の重篤度や緊急性を判断し、対処方法や優先順位を即座に変更することも求められます。しかし、そうしたことは患者さんの社会的地位や支払金額の多寡に影響されてはなりません。

 「医療に関してVIP(最重要人物)は存在しないと考えます。社会的なVIPであるがゆえに、一般人に比べて何かしらの制限というか、便宜が必要になることが多いかもしれませんが、それと医療を混同しないようにしないといけないと思います」。これは当院の病院長の言葉です。

 医療人である前に社会人として、分け隔てのない丁寧で誠意のある対応と、顧客である患者さんのために努力を惜しまない姿勢が重要です。さらに大切なのは、必要な情報について患者に詳しく話してもらうよう誘導する技術でしょう。患者からの情報収集もコミュニケーションの一種であり、こうした双方向性のやり取りがなされているかどうかで、接遇に関する患者さんの満足度が決まるように感じます。

 次回はコミュニケーションギャップの結果、生ずる医療紛争など、現在の日本の医療の抱える問題について考えてみたいと思います。






(上毛新聞 2006年8月25日掲載)