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元群馬町教育長 山本 幸雄さん(高崎市金古町)

【略歴】信州大卒。60年、群馬に移り旧小串中(嬬恋)で教諭生活をスタート、堤ケ岡小などで教頭に。群馬中央中の校長を退職後、群馬町教育長を2期務めた。

健全育成で親と教師

◎継続できる連携策を

 子供たちの度重なる悲惨な事故や事件を契機にして、地域全体で子供を守り、育てようとする機運が高まり、通学路の安全点検や出迎え、下校時間に合わせた散歩や声かけ運動、車によるパトロールや広報活動などが各地域で実施されている。また、夏休み中には健全育成団体などによる各種のイベントが行われ、山や森に家族で出かけ、子供たちに多様な生活体験をさせようとする保護者も多く見られ、頼もしさを感じた。

 夏休みは、子供たちが家族や地域の人々との触れ合いを深め、自然に親しみ、社会性や個性を伸ばす最もよい機会である。学校が始まり、成長の足跡がはっきりと見えてくる。身長や体重が増し、日焼けした顔からは白い歯並びが際立って目立ち、健康的でたくましさを感じる。また、積極性や社会性が身についてきたのがよく分かる。夏休み中の生活が充実していたことの証しでもある。

 しかし、家庭の内情や学習、進路、部活動、友達関係などに悩みを抱える子供、体調不良を訴え、不登校気味になる子供、問題行動に走る子供などが、新たに見られるのも夏休み後である。子供の健全育成には、学校と家庭との連携が最も大切であるが、時として、トラブルに発展することもある。学校が子供の心の変化に気付かなかった場合とか、気付いて家庭に連絡したが、保護者がそれを軽く考えてしまう場合や、そのまったく逆の場合などもあり、連携の欠如は子供の心を傷つけ、教師も親も疲労とストレスで情緒不安に陥る。

 一般に保護者は学校からの連絡には過敏になりがちである。それは学校の配慮不足からくる面もあり、その影響の大きさにも着目する必要がある。例えば、保護者個人あての連絡は、子供に問題が生じたときに偏り過ぎており、この傾向は学年が進むにつれて強まっている感じがする。学校からの連絡がいつも子供の問題の発生を予感させるとなると、学校を避けたいと思うのが人情であり、これが不信感を増幅させ、連携を阻む芽生えともなりやすい。

 低学年担当の教師には、手のかかる子供を抱え、想像を超える多忙の中においても、子供の長所や変化の発見に努め、それを記録し、子供を通してこまめに保護者に知らせる努力を重ねている人も多い。これが親子の明るい会話材料となり、触れ合いを深めることにつながっているともいわれ、保護者との強い連携や信頼関係のもとになっている。しかし学年が進むにつれて、子供に関する連絡も疎遠になりがちである。

 教育には継続が大切である。交換日記などもあるが、教師や親に大きな負担がなく、親子の会話や学校との連携をはぐくむための、新しい発想でのコミュニケーションの方策が求められている。相手を責め、相手に期待するだけでは何も生まれない。子供の健全な育成を念頭に置き、教師と保護者が知恵を出し合い、真剣に努力する過程があって、信頼と連携のきずなが強まる。






(上毛新聞 2006年9月1日掲載)