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館林市教委学校教育課長 青木 雅夫さん(館林市松沼町)

【略歴】群馬大教育学部卒、兵庫教育大大学院修士課程修了。県自然環境調査研究会会員。前兵庫上越教育研究会長、前館林第十小学校長。

熱帯の植物

◎温暖化で侵略が始まる

 「うそつきは泥棒の始まり」という言葉は死語になってしまったのかと思うくらい、うそが横行している。自然の営みだけは、決してうそをつかないと、どこかで書いたことがある。自然の法則に従って、公平・公正にゆっくりと、しかも着実に動いている。容赦ない自然の営みは人の心も踏みにじるようなところもあるが、見方によれば、うそも隠しもしない、ありのままの姿であるだけなのかもしれない。人間はそれを乗り越える知恵がある。

 去年の夏、地区会館の草取りに参加したら、庭の石を敷き詰めた中から、ニワホコリなどとともに小さなかわいいコミカンソウを見つけた。あまり多くない野草である。地域の草取りやごみ拾いに参加すると、そういった新しい発見があるので結構、得した気分になる。夏草はエノコログサやメヒシバ、オヒシバ、カナムグラなどが非常な勢いで草むらをつくる。やっかいな草取りは誰しも大変だと思っているが、地域環境の整理された気持ちの良い、うそのない美しい様子が犯罪や非行を防ぐ大切な要素になっていると皆が考えるので、毎年行われるのだろう。

 同じころ、校庭の花壇にも同じコミカンソウを見つけた。ものごともそうであるように、今まで見えなかったり、気がつかなかったりしたものが見えてくると、次々に新しい世界が開けてくるから不思議である。コミカンソウはトウダイグサ科コミカンソウ属の在来種で、近縁にヒメミカンソウがある。かわいい名前だが、これは果実を小型のミカンに見立てたものだと牧野植物図鑑には書かれている。

 栃木県の大きな都市へ行ったときに、公園の片隅で見慣れぬ植物を見つけた。知人に聞いたら、ナガエコミカンソウだという。興味を持ったので一本持ち帰って調べることにした。前述のコミカンソウの仲間で、インド洋のマスカレーヌ諸島が原産であるという帰化植物である。地図で調べたらマダガスカル島のすぐ東の方だ。どのように海を渡ってきたのだろうか。一九八七年に神奈川県で発見されたのが最初で、あっという間に日本各地に広がったという。

 一年草なので、翌年は発芽、生長しないだろうと思って観察した。ところが、こぼれた種子からたくさんの発芽があり、取っても取っても新しい株が芽生えてきたのである。熱帯地方では一年中、果実を付けるというし、木質化もするという。その後、数年たっているが、まだ少数ながら、その芽生えが見られる。周りに広がらないように徹底的な防除に心がけている。

 ところが今年八月、家から四キロ以上も離れた地区の植え込みの中にナガエコミカンソウを見つけた。十数株はあるだろうと思われる小群落である。庭のように徹底的に管理できるところではないので、ナガエコミカンソウはそこから周りの地域へ分布を広げていくのであろう。熱帯の植物も温暖化で暖かくなった地方への侵略が始まっている。






(上毛新聞 2006年9月5日掲載)