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弁護士 小林 宣雄さん(前橋市荒牧町)

【略歴】沼田高、中央大法学部卒。54年司法試験合格。58年から地裁判事を務め、83年前橋地裁の裁判長就任。90年依願退官。群馬公証人会会長。02年から弁護士。

振り込め詐欺

◎無条件で従わず相談を

 同居していない孫を装いながらも自分の名は名乗らず、祖父母ら高齢者世帯に電話をかけ、「俺(おれ)だよ、俺、俺。交通事故を起こしてしまい、示談金が○○万円いるから、すぐ振り込んでください。でないと、大変なことになる。振込先は…」などとうそを言って、金銭をだまし取るのが「おれおれ詐欺」の原型。

 その後、手口は複雑、多様化し、聞き手の身内の者が不祥事を起こしたとし、警察官や弁護士役などまで登場させ、示談金などの名目で金銭の振り込みを持ちかけるなどの手口も出現。こうしたことから、この種の犯罪をまとめて「振り込め詐欺」と言うようになったが、現在も一向に減りそうにないようだ。

 いきなり、こんな電話を受ければ、一瞬誰しもびっくり仰天するに違いない。「どうしたらいいか」と思い悩むのも無理はない。

 だが、ここで聞き手側にしっかりしてもらいたいことがある。相手方の要求する「示談金」などの意味の確認だ。そもそも示談とは、民事上あるいは刑事上のもめ事を当事者双方の話し合いで解決しようとするもの。だとすれば、相手方の振り込め請求に対しても、「いつ、どこで、誰が、誰に対してどんな事件を起こし、誰がその示談話などを扱っているのか」「示談金などの計算根拠」「こちら側が示談金などの支払いをしなければならない法的根拠」などを、少々理屈っぽいかもしれないが、相手方に問いただし、こちら側の調査の手掛かり資料の提供を求めることも必要だ。

 また、金を払う以上、その根拠となる当事者双方の住所、氏名など人物特定事項、示談内容などを記載した示談書、相手方が示談金などを受け取った旨の相手方名義の領収書などがなければ意味をなさない。相手方の指定する金融機関口座に指定の金銭を振り込んだということだけでは、懸案の示談金などを支払ったことの証明にはならない。とすれば、その後、同じ請求を繰り返される恐れもないとはいえないことになる。

 こうした事柄をできるだけ詳しく相手方に問いただし、確答を求めた上で、「準備の都合もありますから、折り返し電話か手紙で連絡します。そちらのお名前、お住まい、電話番号を教えてください」と言って、ひとまず電話を切って時間を稼ぎ、その間、頭を冷やしてから警察、弁護士会、その他のしかるべき有識者に相談したい。そんなに難しい段取りとも思われないが…。振り込め指示に無条件で従ってしまうことは、溝に金を捨てるのと同じことだということに留意する必要がある。

 もし、不幸にして相手方の電話のような不祥事が現に起きているのであれば、その時は、公正な司法機関あるいは有識者を介して筋を通した解決策を模索すればよい。「臭い物にふたをする」ということわざがある。不正や醜悪なことが世間に知れないように一時しのぎの手段で覆い隠そうとすることの例えだが、振り込め詐欺の被害者にそんな気風の生じないことを期待したい。






(上毛新聞 2006年10月2日掲載)