視点 オピニオン21
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オーエックス関東代表取締役 生方 潤一さん(伊勢崎市東町)

【略歴】足尾町(現・日光市)出身。元国際A級ライダー。92年に脊髄(せきずい)損傷後、伊勢崎市で車いす販売とレース参加支援の会社を創立。ぐんま障害者スポーツ・サポート“41”理事。

障害の壁を越えて

◎考えたい人の気持ち

 先月二十日の彼岸の入りに、実家の仕事の手伝いで足尾に行った。墓参りのため、近所の人たちが花や線香を持って歩いていた。僕は車いす生活になって以来、一度も墓に行っていない。両親が墓参りをするというので、近くまで同行することにした。

 家から歩いて五分ぐらいのところに、山の斜面に段々畑のように墓所がある。霊園とは異なり、アスファルトの道は途中から上り坂の砂利道になっている。僕はそこまでが限界。だから、墓参りができない。墓が見える、その場所で待つことにした。

 昔を思い出したが、ここは幼い時の遊び場の一つだった。墓参りに来た人が供え物をして帰る。地域の風習だが、供え物を食べると風邪をひかない、とお年寄りから聞いていた。僕たちは、それを理由に供え物をおやつにしていた。過疎化で、今はそこで遊ぶ子供たちはいない。姿を現すのはサルだけで、供え物を食べてしまうらしい。だから「墓をきれいにしたら、供え物は持ち帰らなければ…」と父が言っていた。

 しばらくすると、両親が砂利道の傍らに立つお地蔵様の周りの草刈りを始めた。僕が幼いころ、いたずらをしたという数体のお地蔵様である。ここで遊んでいて、いつ見てもお地蔵様は何も身に着けていなかった。赤いお掛けをしていると思っていたので、親の会社からこっそり赤ペンキを持ち出し、お地蔵様に描いてあげた。

 僕としては良いことをしたと思い、意気揚々と自宅に戻った。すると、帰るやいなや、頭ごなしに母にしかられた。大人から見たら、ただのいたずらに思えたのだろうか。母親はバケツに水をくみ、一体一体、丁寧にたわしで洗っていた。僕も手伝ったが、何となく腑ふに落ちない気分だったことを覚えている。そんな事があったからか、両親が墓参するときは必ず草刈りをする。あの時の母の気持ちも分からないでもないが、僕も親となった今、自分の子供たちが当時の僕と同じことをしたら、どう対応するだろうか。

 子供、お年寄り、障害者に限らず、その人の立場になって話を聞くことの大切さを今、あらためて思う。そして、心に余裕を持った自分でありたい。歩くことができなくなって、人を思う気持ちが強くなったのかもしれない。これまで、この欄で障害という壁について語ってきたが、その壁を越えることができる可能性が僕にもあることを信じたい。

 そして、僕を理解し応援してくれる人たちと一緒に、共生に向けて、いろいろな分野で挑戦をしていきたい。僕が携わっている仕事やモータースポーツを通して出会った多くの人たち、そして、これから出会うであろう人たちに対し、僕は可能性を大切にして、最初にその人の気持ちや立場を考えたいと思っている。とはいえ、当時のお地蔵様の気持ちは知る由もないが…。






(上毛新聞 2006年10月15日掲載)