視点 オピニオン21
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東京福祉大学教授 矢端 義直さん(前橋市若宮町)

【略歴】文部省社会教育局、総理府青少年対策本部、国立赤城青年の家、県教委、県立青少年教育施設などを経て、05年4月から現職。専門は生涯学習、社会教育。

豊かに生きる

◎好奇心持って前向きに

 少子高齢化が進む中、地域の中であるいはマスコミの中で元気なお年寄りの姿を見聞きすることがある。人生の先輩から学ぶことや考えさせられることが多い。

 九十歳を超えた今でも、現役の医師として活躍され、「生きかた上手」等の著作でも知られている日野原重明さんのスケジュール表には何年も先まで書き込まれているという。また、エレベーターを使わず階段を一段置きに上っていく姿は本当に若々しい。

 私の身近にも九十歳を超え、病を抱えているとは思えないほど、しっかりと一人暮らしをしている男性がいる。

 都会から山里に移り住んで、すでに六年目を迎える。

 里山に抱かれるように立った家の庭先で、野菜を作ったり花を育てている。

 大輪の花「月下美人」を大切にしていて、鉢を増やしては訪れた人に差し上げ、花が咲いたとの便りを受け取るたびに、わが事のように喜んでいる。

 また、今年は、一度はやってみたかったという「三本仕立ての菊づくり」に挑戦している。毎日くみ置きの水をやり、余分なわき芽がないかと目を配りながら、来年のためにとノートに書き留め、その成長を楽しんでいる。

 野菜作りや庭・花の手入れが日常のほとんどだが、時には定年退職後、学んだ鎌倉彫を黙々と始める。小さな作品だが、根気のいる作業に時間を忘れて取り組んでいる。

 食事の支度、掃除・洗濯等の家事もマイペースでこなし、散歩も心がけている。

 雨の日には「庭木の病害虫」や「野鳥」「野の花」等の本を読むほど研究熱心だ。

 また、向かいの山をのんびり眺めているのも好きな時間だという。空、雲、風、木々や草花等さまざまな姿を見せる自然の動きを肌で感じながら暮らしている。

 学びと経験の中で培われた知識や技能、好奇心、チャレンジ精神、他への思いやりの心と柔軟な心に自立の志、そして鍛えた足腰等々併せ持つときに、こんな生き方ができるのだろう。

 私たちの大きな励みとなるような人生の先輩たちに敬意を表したい。

 人は誰でも個々に老いの時を迎える。自分に与えられた時間がどれだけなのかは分からないが、かけがえのない日々を、前向きに好奇心を持ってチャレンジし続けたいものだ。

 生きがいとなるもの、夢中になれるものをまずはどん欲に見つけ出し、人との出会いを大切にしていきたい。

 身体の衰えを超えて心豊かに生きるための第一歩を踏み出し、次代を担う人たちへの励ましとなるような生き方をしたいものである。

 「ときには、二十歳の青年よりも六十歳の人に青春がある/年を重ねただけでは人は老いない/理想を失うとき初めて老いる」

 アメリカの詩人、サムエル・ウルマンの詩「青春」の一節一節が心に響いてくる。






(上毛新聞 2006年10月19日掲載)