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専修大学教授 高木 侃さん(太田市石原町)

【略歴】中央大学大学院修士課程修了。縁切寺満徳寺資料館長。専攻は日本法制史・家族史。博士(法学)。著書に「縁切寺満徳寺の研究」(成文堂)など。

満徳寺(下)

◎縁切り寺PRする演歌

 資料館や博物館では、集客にどこも苦労している。だから、どのようなきっかけでもよく、それは歌でもよいのである。

 昭和四十年代、グレープ時代のさだまさし作詞・作曲の『縁切寺』があった。「今日鎌倉へ行って来ました」で始まるので、明らかにもう一つの縁切り寺・東慶寺を歌っている。恋仲だった彼女が突然結婚してしまい、彼女への思いをようやく断ち切って、二人で撮った一枚きりの写真を納めにきたという。最後のフレーズ「あれから三年 縁切寺」が効いている。

 ところで、ここ一両年、縁切り寺・満徳寺(太田市徳川町)を歌った演歌が立て続けに出された。発売順に述べれば、地元で活動されている荒木都与雪作詞、矢島ひろ明作曲の『黒髪未練』。出だしは「雪の降る朝 女がひとり 縁切寺の 戸を叩(たた)く」で、作詞者の妻・荒木絹代が歌う。「過去を忘れて出直す」ことが、なかなかできずにいる未練を描いたものである。

 次に県内在住の茂木けんじ作詞、千木良正明作曲、沢ゆかりが歌う『おんなの旅立ち』がある。「裸はだ足しで駆けて 投げた草履(ぞうり)に 命がすがる」で駆け込みの様子が語られ、寺法離縁、三くだり半まで詠みこんでいる。歌詞の最後は、一番が「女が駆け込む」、二番は「女が出直す」、三番は「女が旅立つ」縁切り寺で、かつて縁切り寺が女性救済の聖所であり、女性の再出発を支援したことを端的に表現している。

 もう一つ、池田充男作詞、叶弦大作曲、若山かずさが歌う、曲名もずばり『縁切寺』。今年発売されたこの歌を清水聖義太田市長がタクシーの中でたまたま聞き、そのことを広報のコラムに書かれた。その縁で過日、若山さんが同市を訪問され、FM太郎で清水市長と対談。さらに、尾島ねぷた出陣式の前に地元の人や観光客の前で、この曲を披露した。

 愛することの喜び・悲しさ、幸せをくれた彼への思い。それは同時に、罪の痛さを覚えるものでもあった。「かんざしを 日暮れの門に投げこんで」と往時に思いをはせ、最後に「縁切寺は なみだ雨 許してください 深いおんなです」で終わる。罪深いのか、情が深いのか、いろいろに解釈できる。

 歌詞からは満徳寺と特定できないが、今年二月の寒い一日、満徳寺境内でプロモーションビデオが撮影されたことや、若山さん本人が聴衆の前で「上州の満徳寺を歌います」と強調してくれていたことで、これは満徳寺の演歌なのである。すでにカラオケにも入っている。また、市民有志による「若山かずさ 縁切寺を聞く夕べ」が今月二十六日午後六時から満徳寺本堂で開催(有料)されることになった。

 いずれにせよ、いろいろな場で縁切り寺のこと、満徳寺のことを宣伝できればいいというのが、満徳寺資料館長の切なる願いなのである。






(上毛新聞 2006年10月20日掲載)