視点 オピニオン21
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桐生地域情報ネットワーク理事長 塩崎 泰雄さん(桐生市宮前町)

【略歴】東京歯科大卒。歯科医師。地域情報ネットの構築に携わり、母体のNPO法人が「桐生お召しと職人の系譜」出版。ファッションタウン桐生推進協議会所属。

教育には自然が一番

◎おばちゃんと桐生川

 桐生市の街を南北に流れる桐生川は、森林浴の森百選の源泉林にはぐくまれる美しい川で、彩色豊かな友禅流しや、風に翻る織物、ハヤ釣り、水浴び、虫捕りなど、日暮れまで過ごした思い出は、私の原風景でもある。

 今回は、その桐生川をこよなく愛する同市菱町の<おばちゃん>のお話。彼女は今春、長く勤めた職場を退き、今は「里山遊び」を楽しんでいる。本人の希望で名前は伏せるが、いつもニコニコと笑顔のかわいいおばちゃんである。

 先日、エフエム桐生の取材で訪れたご自宅は、桐生川の脇の閑静な住宅地にあった。三分ほど歩いた細い橋の近くに大きなオニグルミがあり、橋の上にも熟れたクルミが落ちていた。足で皮をむき、「ほらっ」とクルミを取ってみせる。リポーターは驚きの声を上げて、目を輝かせた。「夏にはホタルが乱舞する絶好のポイントなんだよっ」と教えてくれる。橋を通る人々は自然にあいさつを交わす。この辺りはそんな雰囲気のある集落でもある。

 さらに、川沿いを歩きながらクルミの木を探す。注意して見ると、オニグルミ、ヒメグルミの二つが混在する。おばちゃんによると、同じオニグルミでも、木ごとに実の形や大きさが違うそうだ。昔から食用として大切にされてきたのだろう。クルミは五―六本集まっていて、その中には大きなヒメグルミの木が一本ほどあった。私が好きなのはオニグルミで、取材の最中にも煎(い)ったクルミをおいしくいただいた。

 おばちゃんの話は止めどがない。クルミのほか、チョウ、衣笠茸(きぬがさたけ)、ホタル、カワニナ、サワガニ、カワガラス、竹やぶのそうめん流しなどなど、あっという間に二時間はたっている。クルミの殻は火力が強いため火おこしに使い、殻合わせで遊んだり、若いクルミで草木染をしたりと、彼女にとっては、すべてが興味の対象で、それはほとんど無限とも思える好奇心から生まれてくるようだ。例えば、二歳児にクルミを食べさせると、自発的に道具を使って食べ始めることや、クルミの殻合わせなどいろいろな遊び方を教えてもらった。すべてが大好きな子供たちにつながっている。なるほど、子供たちへの知育・食育には、自然が一番だと感心する。

 住宅脇の竹やぶから石段を下りると秘密の河原に出る。川が緩くS字に曲がり、どこからも死角となるこの場所には多くの動物がやってくる。カワセミが小魚を捕りに潜る。イノシシの足跡が水辺の草に残り、カワガラスがカワニナを食べにくる。アゲハチョウやカワトンボがスイスイと舞う。

 何げなく、おばちゃんの人さし指に赤トンボが止まった。そっと取って手のひらにあおむける。そのままの格好で動かない。ふっと息を吹きかけると飛び立った。まるで、手品を見るような一瞬だ。

 おばちゃんの話はインターネットラジオ版エフエム桐生で配信されるが、こんなふうに、「市民参加の番組作り」を始めている。桐生には多くの逸材が隠れている。こんな資産を持つ桐生を語り伝え、作り残す人がいるはずだ。そんなわけで、エフエム桐生では多彩な人材を求めている。われこそはと思う方は、ぜひ、ご一報をいただきたい。






(上毛新聞 2006年10月22日掲載)