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元群馬町教育長 山本 幸雄さん(高崎市金古町)

【略歴】信州大卒。60年、群馬に移り旧小串中(嬬恋)で教諭生活をスタート、堤ケ岡小などで教頭に。群馬中央中の校長を退職後、群馬町教育長を2期務めた。

教師の指導力

◎研修方法の工夫改善を

 困難な仕事にも決してくじけず、工夫と努力を重ねて道を切り開き、人々に希望や勇気を与えている人たちも多い。また、その人たちの話を聞くと、不思議に感動し、感化もされる。まさに人生の師でもある。まして子供たちの生き方や人格形成にも、大きな影響力を持っている教師の職責は重く、その期待とともに、いま指導力の向上への努力が強く求められている。指導力は、学校での教師の研修の在り方に大きく関係している。

 一般に指導力がある教師たちは、専門教科や生徒指導等の知識や技能を身につけているとともに、他の分野にも精通しているという共通点がある。また、指導力は専門的な知識や技能のみならず、教師の使命感、ものの見方や考え方、進取的な性格、多様な生活経験等の要素が大きく絡み合って発揮されている。このことからも学校での研修には、教師の精神面や生活経験の不足を補強することに着目することも大切である。

 県外で教職についた同僚の話である。赴任した学校の定例研修会では、「般若心経」の輪読が伝統的に行われていた。新任教師にとって、最初は戸惑いと苦痛さえ感じた。時がたつにつれて、先輩たちの真摯(しんし)な研修態度や、とらわれのない心の大きさに触れ、また深遠な内容にも気付き、この研修が教師としての心を鍛え、成長する大きな糧になった。初めは教育にまったく関係ないと思い込み、その意義さえ見いだせなかった研修が、後に子供たちを支え、はぐくむための不屈な力となり、先輩たちに感謝するとともに教師となった大きな喜びと誇りを感じた。

 いま学校での研修は、主に教科や道徳、特別活動や生徒指導などの指導技術的なものに関するものが多い。これも非常に重要で意義があるが、教科指導や生徒指導をとってみても、その方策的なものの追求だけでは、指導力の向上にあまり結びつかない気がする。

 また学校には、教師の転出入が避けられず、三年間で半数近い教師が入れ替わることもときには見られ、研修の積み重ねができにくい。教師によっては未消化のままで、研修が途切れることになる。未消化の研修は教師に多忙感や疲労感を与え、研修意欲の衰退を招く原因にもなる。このことからも、もっと大きな観点から研修をとらえ、学校や地域の特性を踏まえながら、教師の創意や特性が伸ばせるように、学校と個人の研修テーマの整合性をもたせ、積み重ねを重視した研修の仕組みを考えることも大切である。

 教師の資質を磨き、指導力を高める研修素材は非常に多い。それを掘り出すのは、管理職や経験豊かな先輩教師のリーダーシップである。教育は人からの感化であるともいわれており、どんなに教育制度や内容が変わっても、教師への信頼や期待は変わらない。それに応えるためには、教師のたゆまぬ自己研さんの努力と、惰性に流されず課題に即応できる、柔軟な学校での研修方法の工夫改善が欠かせない。また、教師の研修に対する地域社会の理解と協力が重要である。






(上毛新聞 2006年10月24日掲載)