視点 オピニオン21
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東京経営者協会経営労務コンサルタント 荻野 千槍さん(前橋市南町)

【略歴】前橋高、同志社大法学部卒。東京で上場企業3社の人事部長、役員、顧問を務め、本年6月から現職。日本労務学会会員、日本キャリアデザイン学会会員。

「心」を育てる

◎意欲を持って真剣に

 東京湾沿いの海岸に長年住み慣れた寓ぐう居きょがある。そこは東京に近いが、白砂青松、温暖の地で、マンションの窓から海と富士山が一望できる。そこから電車で約二十分、東京ディズニーランドのある舞浜駅に着く。このディズニーランドを眺めながら東京まで通勤していた。ここは楽しむだけでなく仕事の面でも参考になった。

 教育というと、マニュアルや訓練を考えがちだが、心を養う教育も大切だ。マニュアルや訓練を「ハード」だとすれば、心の教育は「ソフト」である。人材育成にはこの両面が欠かせない。特に本当の人間、人材をつくることは重要だと思う。そこで、今回はある話を要約して紹介しよう。「一度きりのお子さまランチ」という実話である。
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 東京ディズニーランド内の、あるレストランに若い夫婦が食事に来た。キャスト(ウエートレス)が二人掛けのテーブルに案内してメニューを渡した。夫婦はAセットとBセットを一つずつ注文した。そして、奥さまが言った。「お子さまランチも一つください」と…。「お客さま、誠に申し訳ございません。お子さまランチは小学生のお子さままでとなっているのですが…」と、キャストは丁寧にお断りした。すると、二人は顔を見合わせ、残念そうな表情を浮かべた。

 その表情を見てキャストは、「何か、ほかのものではいかがでしょうか?」と聞いた。すると、二人はしばらく顔を見合わせ、奥さまが話し出した。

 「実は、今日は昨年亡くなった娘の誕生日なのです。娘は最初の誕生日を迎えることができませんでした。子供がおなかにいるときに主人と三人でこのレストランでお子さまランチを食べようねって言っていたのですが、それも果たせませんでした。子供を亡くしてからしばらくは気力もなく、最近やっと落ち着いてきたので、亡き娘にディズニーランドを見せて、三人で食事をしようと思ったものですから…」

 その言葉を聞いたキャストは、仲間の賛成を得て、二人を四人掛けのテーブルに案内し、お子さまランチの注文を受けた。そして「お子さまのいすはお父さまとお母さまの間でよろしいですか?」と言って、小さな子供用のいすをセットした。その数分後…。「大変お待たせいたしました。お子さまランチをお持ちいたしました」とテーブルにお子さまランチを置き、笑顔で言った。「どうぞご家族で、ごゆっくりお楽しみください」

 数日後、お客さまから手紙が届いた。「お子さまランチを食べながら涙がとまりませんでした。こんな体験をさせていただくとは夢にも思いませんでした。これからは涙を拭ふいて生きていきます」(インターネット情報「スマイルニュース」から)
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 人は心の通わせ方に心を動かされる。意欲を持って真剣に取り組むと「心」が育つような気がする。気候が温暖であれば万物は生育し、寒冷になれば枯れる。人も同じで、寛大で心の温かい人は、万物をはぐくむ春風のようなもの。そういう人の下ではすくすく成長する。大切なことは仕事の種類でなく、仕事に取り組む「心」である。






(上毛新聞 2006年10月25日掲載)