視点 オピニオン21
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妙義山麓美術館長 稲川 庫太郎さん(高崎市石原町)

【略歴】21歳で日展初入選。モンテカルロ現代国際グランプリ展入選など国内外で数々の賞を受賞。日本はがき芸術作家文化会長、碓氷峠アートビエンナーレ実行委員長。

才能は知的行動で昇華

◎奉仕活動

 一九八〇年、高崎市のロータリークラブに招かれた。市内の公共施設に集う若者の十一年間の絵画活動が認められ、優良勤労青少年クラブとして労働大臣賞を受け、新聞で報道されたときだった。当時はロータリークラブやライオンズクラブなど別世界の存在で、関心や知識もなかった。

 会場では、鐘の合図で全員がロータリーソングを合唱。食事の後、会員の結婚・誕生日記念などの祝い事やニコニコボックスに寄付した人の紹介、各奉仕委員会報告の後、私のスピーチとなった。

 市の要請で絵の講師を務めたこと、美術部員の活動状況や大臣賞受賞記念展を何とか実現させたいことなどを話して、終会となった。数カ月後、ロータリークラブの協力により、地元のデパートで記念展を開催することができた。その折、何度も会場を訪れたロータリアンの熱意と行動力に感動した覚えがある。

 ロータリークラブは「人道的な奉仕を行い、あらゆる職業において高度の道徳的水準を守ることを奨励し、かつ世界における親善と平和の確立に寄与することを目指した、事業および専門職務に携わる指導者が世界的に結び合った団体」で、一九〇五年に設立。ライオンズクラブは「われわれは知性を高め、友愛と相互理解の精神を養い、平和と自由を守り、社会奉仕に精進する」を誓い、一七年に設立。どちらも世界に百数十万人の会員がおり、県内では双方で約四千六百人が奉仕活動を展開している。

 国際ソロプチミストも、女性の地位を高める奉仕活動を目的に二一年に設立され、県内には二百人近い会員がいる。三団体とも米国で誕生し、年度別にテーマや目標を定め、世界各国で有意義な活動を遂行。ほかにも各種の団体が独自の奉仕活動を実施している。

 陰徳こそ美徳という精神も理解できるが、活動内容や業績を地域社会に広め、理解してもらうよう努力することも大切だと思う。大臣賞受賞の報道のおかげで、各種の奉仕団体を知った。知ることは行動の源であり、未来につながる。

 南米の先住民に伝わる物語『ハチドリのひとしずく いま、私にできること』(辻信一監修、光文社)という本がテレビで紹介された。

 「森が燃えていました。森の生きものたちはわれ先にと逃げていきました。でもクリキンディという名のハチドリだけは、いったりきたり、くちばしで水のしずくを一滴ずつ運んでは、火の上に落としていきます。動物たちがそれを見て、『そんなことをしていったい何になるんだ』といって笑います。クリキンディはこう答えました。『私は、私にできることをしているだけ』」

 ハチドリの世界に奉仕団体があり、数百万羽が行動したら、燃えていた森はどうなっただろうか。人間の内面に秘められた才能は知的行動によって昇華され、完成する。芸術や文化も知的行動の産物である。私も、ハチドリのように私にできることをしていきたいと思っている。






(上毛新聞 2006年10月26日掲載)