視点 オピニオン21
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下仁田自然学校長 野村 哲さん(前橋市三俣町)

【略歴】長野県生まれ。65年前橋に移り住む。群馬大学社会情報学部教授、学部長などを歴任。上毛新聞社刊「群馬のおいたちをたずねて」など編著書多数。

アイスランドに学ぶ

◎外来語を母国語に置換

 中学生のころから、あこがれていたアイスランド行き。一九八二年、ついにこの夢が実現した。旅のきっかけは、文部省(現文部科学省)在外研究員であった。それから、アイスランドの自然の美しさ、地質の面白さなどに引かれて渡航を重ね、今年で八回目を数える。

 五〇年代の後半に海洋の地磁気測定が始まった。六〇年代の前半に、全海洋の地磁気の資料が出そろった結果、平行する磁気異常のしま模様は、海底山脈の中軸部を境に左右対称であった。これにより、海洋底が開いているために左右対称になった、という「海洋底拡大説」が生まれた。さらに、六〇年代の後半になると、海洋底のみならず、大陸も移動して海溝や山脈ができる、といった「プレートテクトニクス」(以下、板説)の考えに発展した。

 しかし、私はこの考えに批判的で、地球の歴史はそんな単純なものではない。もっと地域性があり、地質時代ごとに異なった地質現象を起こしている―と考えていた。

 板説によれば、開口部になっている大西洋の海底山脈(中央大西洋海嶺(かいれい))は、アイスランドの島の南西部に入り、同島を突き抜けて北極海に達している。従って、アイスランドにも、プレート(地球の表層板)の開口部が通っていて、アイスランドの陸地は二分され、西へ、東へと移動・拡大しているという。八回にわたる渡航の主目的は、この板説の真偽を明らかにすることであった。

 数年前から、アイスランドの地質を本にするための執筆を始めた。幸い、二十五年間の研究が実って、板説に反論できる成果がでてきた。ここでは、成果の具体的な内容は省略し、本になってからのお楽しみ、とさせていただこう。

 アイスランドでは、社会の在り方についても学んだ。日本では、ケア、オンエア、コンセプトなどの語がテレビや新聞紙上で流れる。これらの語の使用は、お年寄りや子供たちを疎外している。だからといって、「英語教育を盛んに」というのは本末転倒だ。

 一方、アイスランドでは、「アイスランド母国語保存協定委員会」があって、外来語を、その意味を失わないで、かつ、なじみやすいアイスランド語に置き換えている。例えば、テレビは「風景を投げる」という意味のショウンバープに、コンピューターは、「計算する」という意味のトルバに、それぞれ換えている。

 日本語をまともに話せない若者が増え、誤りだらけの文章を書く大学生も多い。国際交流の基本は、英語を習得することではなく、日本人らしさ、誇りを持つことである。これらを考慮すれば、小学校課程から英語教育を実施するのはどうかと思う。






(上毛新聞 2006年10月27日掲載)