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徳井正樹建築研究室主宰 徳井正樹さん(高崎市石原町)

【略歴】桐生南高、中央工学校卒。一級建築士。徳井正樹建築研究室(東京)を主宰。新屋根開拓集団「屋根舞台」の舞台監督、ぐんま観光特使などを務める。

家づくりはドラマ

◎人選と行動力こそ必要

 「家づくりをドラマで味わう」。この言葉に期待と疑いを感じた方に、性能や金額を超えた豊かな選択肢があるという事実を伝えたい。

 日ごろ、建主との会話の中で「人生最大の買い物」という言葉をよく耳にする。また「ぜひ、自分の価値観やこだわりを生かしたい」とも聞く。これに応える私の答えは、「世界に一つのシナリオとキャストで自分の家づくりをドラマに仕立て、家族全員でその舞台を存分に味わってみないか!」である。大げさに聞こえるが、何度もその場面に立ち会った設計職人の大まじめな提案だ。

 なぜドラマなのか? それは建主が最後まで夢をあきらめずに家族が主役の家づくりに立ち向かう時、必ずと言っていいほど想像を超えた出来事が起こるからだ。その多彩なドラマのほんの数例を挙げてみよう。

 丸太の買い付けに挑んだ家族が、植林から製材、流通、加工に立ち会う過程で、木材をめぐる諸問題と手仕事の素晴らしさを親子が一緒に学んだことが一番に思い出せる。深い深い原生林、原木市場で響く競りの声、樹齢三百年の丸太が製材される瞬間、手ごわい材料をまとめ上げた棟梁(とうりょう)の横顔、親も子も一つ一つのシーンが脳裏に刻まれているはずだ。

 また、都会での田舎暮らしと最先端エコエネルギーの導入の融合を試みた建主が、その信念と人間性から赤城山ろくの築百五十年の旧家の大黒柱を譲り受けるに至ったことも印象に深い。黒ずんだケヤキの柱は百キロも離れた住宅街で旧家と同じように囲炉裏(いろり)にいぶされながら築三年を迎えている。

 起死回生の物語としては、一度進めた量産住宅系の三者択一型の建設手法がどうしてもなじめず、リスクを背負ってすべてをひっくり返し、若い夫婦がクリの丸太梁(ばり)削りから壁塗りまで、すべてに積極的に参加してまとめきった家づくりなどなど。建主の要望と人のつながり、時代や環境の違いから一つとして同じドラマ展開はない。

 では、そのドラマを体現してきた家族に共通するのは何だろう。それは「自分の夢を託すに値する人物かを見極める力と、その人を信頼して任せきれる度量だ」と私は振り返る。価値観やこだわりを実現させる家づくりに必要なのは「人選と行動力」。付け焼き刃的な建築の勉強は不要、素人のままでいいのだ。

 具体的には口コミからインターネットまで、情報手段は何であっても自分の理想に近い家を見つけ出し、必ず自身の目で確認してから、その関係者に正面からアタックするのが最も近道である。最初に約束した通り、この手法にはコストによる制限などなく、誰でもどんな条件でも当てはまる。われわれを驚かせる夢やこだわりが詰まったドラマを実践する家族が、一軒でも多く立ち上がること、それは群馬の家景色を豊かにしてくれるに違いない。






(上毛新聞 2006年10月30日掲載)