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富岡総合病院長 柴山 勝太郎さん(高崎市竜見町)

【略歴】群馬大医学部卒。同学部附属病院助手(泌尿器科)、富岡厚生病院医長、同学部助教授を経て91年から富岡総合病院長、02年から県病院協会長。

病院の医師不足

◎自力で育成する体制を

 病院の医師不足問題がマスコミをにぎわしている。県内でも東毛や北毛で基幹病院に産婦人科や小児科の医師が不在となり、社会問題化している。病院の医師不足については、(1)新医師臨床研修制度の発足(2)病院に勤務する医師の“開業ラッシュ”(3)女性医師の増加―などが理由に挙げられている。

 三年前に発足した新医師臨床研修制度で二年間の研修を終えた医師が、今春から大学や市中の研修病院で専門医としての習練を始めた。彼らが診療の現場に復帰したので、研修制度発足前の状態に戻ったことになる。

 しかし、大学の医局に入る医師の数は以前の六割弱に減ったため、医師の派遣を大学に依存していた県内の基幹病院は深刻な影響を受けることになった。これまで、群大以外の大学を卒業した医師が県内の基幹病院に勤務するには、群大の医局に所属してローテーションに加わることが必要とされた。さらに、一年交代を原則とする派遣人事が行われたため、市中の病院は自主的に人材を育てることができなかった。

 県内の基幹病院は医師の育成を他所に依存し、自力による医師の育成を怠ったため、ここにきて、その付けを負うことになった。

 医師は習練から熟達の時代にかけて勤務医として病院で働き、その後、開業して地域医療に携わるケースが多い。従って、勤務医が開業を志向することは自然の成り行きであるが、“開業ラッシュ”のために医師の補充がつかないことが問題である。

 今、わが国では医療制度改革が急ピッチで進んでいる。民間の病院はいち早く専門病院化や病床の見直しによる対策に着手しているが、基幹病院では対策が遅れがちである。勤務医が病院の将来に不安を感じて「浮足立っている」ことが“開業ラッシュ”の本当の理由ではないかと思う。

 現在、県下で医療施設に従事する若い医師の割合は女性が30%である。女性医師に対するアンケートでは、産休、育休のため二―三年、職場を離れると、職場に復帰するには六カ月程度の研修が必要とのことであった。また、職場の柔軟な受け入れ体制を望む意見も多かった。女性医師の再就業を支援することが医師不足対策として重要である。

 以上、当面の対策をまとめると、(1)各病院が自力で医師を育成する体制をつくる(2)各病院が自らの将来像を明らかにする(3)各病院がレジデント(後期研修)制を活用して女性医師の職場復帰を支援する―などである。






(上毛新聞 2006年11月5日掲載)