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前橋工科大学情報工学科講師 松本 浩樹さん(吉井町下長根)

【略歴】千葉工業大卒。85年沖電気工業入社、音声処理関連研究開発に従事。3年間、前橋工科大設立準備委員を務め、97年から現職。北関東IT推進協議会委員。

プーのマルチメディア

◎何もしないをしている

 「何もしてないをしているんだよ」。これは、ディズニーのアニメ映画で有名な「クマのプーさん」の名せりふだ。「何もしていない」「プー」などのキーワードから連想されるのは「プータロウ」。「プーさん」が「プータロウ」の語源かと思いきや、その関係は意外に希薄なようである。

 「プータロウ」は定職を持たない人を指す若者言葉である。もちろん、学生や主婦、ご隠居さんなどは、これに含まれない。この語源が「風来坊」「瘋癲(ふうてん)」などらしいことを考えると、「プータロウ」はやるべきときに、やるべきことをやらずに生きている人と解釈してもよいのかもしれない。

 一方「プーさん」は、はちみつを採るために風船にぶら下がり続けたので筋肉が硬直し、飛んできたハエを手で払うことができず、息で「プー」っと吹き飛ばしたことから名前が付いたという話が原作の中にある。「プーさん」は、「やるべきこと」すなわち「はちみつ採り」を一生懸命に行った結果のネーミングである。「プーさん」と「プータロウ」。どうやら別物のようである。

 さて、「プータロウ」の中には全く仕事をしない「ニート」と呼ばれる若者も含まれている。「ニート」は、現実の世界にあまり仲間もいないだろうし、自然に触れる機会も少ないだろう。その半面、ネットに接続されたマルチメディア端末に長い時間向かっている者は少なくないであろう。仲間と自然とともに生きている「プーさん」とは、この点でも大きく異なる。

 一方、「社会人(ここでは社会の中で働く人々の意味で使う)」は、日々の業務に追われ、仕事以外の仲間と過ごす時間はほとんどないだろう。ましてや、自然に触れる時間などほとんどとれないのではないか。結局、「社会人」と「ニート」は、仕事をしているか否かの違いを除けば、あまり差違はないように思われる。

 では、両者に共通の課題、すなわち「仲間や自然に触れながら生きる」すべはないのであろうか? などというと、解答を期待するのであろうが、そんな難しい課題に対して小生のごときが解答を持っているはずもない。ただ近年、ネットに登場し、急速に進展しているミクシィと呼ばれるサイトが有名なSNS(ソーシャルネットワークシステム)が、その突破口になる可能性があるかもしれない。

 そこでは、基本的には素性が明確にされており、従来のサイトに比べ危険性が少なく、現実の世界に近いサイトといわれている。このようなサイトであれば、時間のない「社会人」も、この中で仲間との活動ができるし、「ニート」も少し現実感を持つことができる。

 そして、「社会人」はこのツールを使って時間を生み出し、仲間と自然の中へ、「ニート」は現実の人と接することができるように歩を進められないだろうか?

 夢物語かもしれない。しかし、「何もしない」より「何もしない(程度のこと)をする」方がまだまし。「社会人」も「プータロウ」も「プーさん」を目指してみないか。小生も「何もしないをしている」人を目指そうと思う。






(上毛新聞 2006年11月6日掲載)