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県立女子大学長 富岡 賢治さん(東京都中野区)

【略歴】高崎市出身。東大卒。文部省初等中等教育局審議官、生涯学習局長、国立教育研究所長を歴任。03年1月から現職。青少年野外教育財団会長なども務める。

いじめへの対応

◎教師は気迫を持って

 いじめる方が悪い。いじめをしているグループと、その中心となっている子を見つけ出し、断固としていじめをやめさせることが一番だ。多少の経緯や何かきっかけがあったにせよ、いじめをする子の方が悪い。その行為を正す。その基本が揺れると解決につながらない。

 子供は友達がいなければ生きていけない。その支えになる身の回りの子供たちが意図的に集団で無視したり、仲間はずれにしたり、死ねと言ったりするのは、人間として間違った行為なのだ。悪いことをする子供は、厳しく正す。これが教育だ。

 十年前に当時の文部省が、いじめの総合的な調査を行った。そこで分かったことだが、いじめを受けている子の親で、自分の子がいじめられているのを知らない親は約四割に上る。また、自分の子がいじめの加害者になっている場合に、それを知っている親は5%に過ぎない。親も親だが、いじめに苦しんでいると答えた子供の担任教師の四割が自分のクラスにいじめがないと思っていることが分かった。子供が申告するか、クラスにアンケートでもしないと気がつかないなんて不思議ではなかろうか。

 では、なぜいじめられている子供は教師に言わないのか。「告げ口になるから」「言っても分かってくれないから」「どうせ解決しないから」という答えが圧倒的であった。こんな絶望的なまなざしが教師に向けられているのだ。

 教師は、子供を救うことが確実にできる。この調査で明らかになったのだが、子供が担任教師に自分のいじめられている状況を伝えて、担任教師がいじめをなくすよう対応したら、約五割のいじめがなくなったという。いじめを受けている子がそう答えたのだ。告げ口したと言って、よりひどくいじめられるようになったのは、わずか2%に過ぎない。教師が気迫を持ってしっかり対応すれば、いじめはなくなるのだ。

 問題はそのような教師に当たらないときの不幸だ。その調査でも、教師の一割が「いじめは子供の世界に委ねるべき」と甘い感覚を持っている。さらに、子供たちから見たいじめの多いクラスと、少ないクラスの担任教師観も、その調査で明らかにされた。「冗談やふざけの要素が強く、明るく愉快だが、思いやりや信頼感に欠ける」「明るいが、厳しさに欠ける」タイプの教師のクラスにいじめが多いと子供たちが認識していることも分かった。こういう教師に出会ったとき、必死に子供や親が相談してもうまくいかない。

 そのときは校長の出番なのだ。担任でらちが明かなかったら、親は校長にしっかり要求すべきだ。むしろ、いじめのような重大な行為に対しては、校長は初めから先頭に出て対処すべきだ。そういう気迫に欠ける校長だったら、遠慮することはない。教育委員会や外部の機関に速やかに働きかけるより仕方ない。教育委員会も学校別のいじめの数など無意味で怪しげな調査をするのではなく、いじめの解決に直面して頑張っている学校・教師を把握し、波風が立つことを恐れさせないようにし、徹底的に応援していくべきなのだ。






(上毛新聞 2006年11月10日掲載)